My important place【D.Gray-man】
第17章 憩.
何かあればすぐに、阿呆だの愚図だの言われるし。
何かあればすぐに、スパスパ頭叩かれるし。
「あの子は興味のないものには、怒りの一つだって向けないよ。怒るのはそれだけ、相手を見てる証拠なんだ」
「……」
さらりと告げる元帥の言葉に、改めて考えてみる。
…言われれば、確かに。
初めてのモロッコでの任務の時は、神田は私に対して"無関心"そのものだった。
私の生死そのものさえ、どうでもいい感じだった。
怒鳴られたり殴られたりするようになったのは、あの任務の後からだ。
「でも…やっぱり怒るってことは…嫌な気にさせてるってことですよね…?」
見てくれるのは嬉しいけど、でも怒られて良いとは思えない。
罵声も拳も甘んじて受け入れてるけど、私別にMじゃないんです。
怒られて喜ぶなんてこと、間違ってもないです。
神田の拳、本当に容赦ない時は微塵も容赦ないから。
痛いんですよ、あれ。
「それだけじゃあないよ」
思わず恐る恐る告げると、のほほんといつもと変わらぬ雰囲気で元帥は首を横に振った。
「弱い人には無関心なユーくんだからね。あそこまで実力に差があれば、何度も手合わせなんてしない」
「…手合わせ?」
それって、今朝の組み手のこと?
「誰かに丁寧にものを教える程、心の広い持ち主じゃないからねぇ。なのにずっと手解きしながら、雪ちゃんに付き合っていた。私には、もうそれが充分な"答え"だったよ」
思い出すように呟きながら、その口元には始終笑みを浮かべて、元帥は本当に嬉しそうに笑った。
「ね。怒りだけじゃないだろう?」
その些細な変化も見逃さずに気付くのは、きっと"親"の目で見てる元帥だからなんだろう。
そう言われると、納得できる程の説得力はあって。
…でもすぐに、その言葉に反応することはできなかった。
「……」
なんだか、気恥ずかしくて。
「ありがとう、雪ちゃん」
そんな私に、元帥は優しい表情で笑った。
はっきりとは知らないけれど、まるでそれは子を思う親のような。
そんな、とても優しい顔だった。