My important place【D.Gray-man】
第17章 蓮の湖畔で君を知る
「こらユーくん、女の子にそんな乱暴は」
「なに当たり前に従ってんだよ、こんな変態親父に!」
「そこは親父じゃなくパパと呼ん」
「息子じゃねぇって言ってんだろ!!」
最早敬語なんて皆無状態で、神田が元帥に怒鳴りつける。
慌てて脱ぎかけた上着は、即刻神田の手によって止められた。
「馬鹿真面目に言うことなんざ聞くな」
「だって、相手は元帥だし。逆らうなんて」
「従う内容にも限度があるだろ。阿呆なこと聞いてんじゃねぇよッ」
苛立った口調で咎めながら、神田の手が早々と私の上着を元に戻す。
そのまま留め具をしっかり上まで止められてしまった。
何もそこまでしなくても。
「ぷっくくっ…いやぁいいねぇ」
そんな私達に口を挟んでこない元帥は、何故か楽しそうに笑うばかり。
というか、なんか……嬉しそう…?
「やっぱり是非とも、絵に残しておきたいかな」
にこにこ笑いながら、再びスケッチブックを手に構える。
「あんたの趣味をどうこう言う気はないが、こいつを巻き込むな」
そんな元帥をギロリと鋭い目で睨み付けると、神田は片手で私の体を背中に回し込んだ。
というか既にその顔が、思いっきりどうこう言ってます…!
「おやおや。私の息子は身内には厳しいみたいだねぇ」
「だから息子じゃねぇつってんだろ…!」
「か、神田っ落ち着いて! 元帥は好意を向けてくれてるだけだから…ッ」
「んな好意要るか!」
殺気立つ神田を慌てて後ろから止める。
「悪気はないんだし、歩み寄りだと思えば」
「あれのどこが歩み寄りだ。ただのセクハラだろ!」
「セクハラなんて酷い言い草だなぁ」
騒ぐ私達を余所に、話題の根本であるティエドール元帥だけは始終のほほんと笑っていた。
本当に、底が知れないというかなんというか。
やっぱり元帥程の器を持つ人だと思う。
…クロス元帥同様、随分と個性的な人みたいだけど。