My important place【D.Gray-man】
第17章 蓮の湖畔で君を知る
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「わぁ、凄い眺め」
「中々の景色だろう?」
「こんな所が教団の近くにあったんですね」
「私のお気に入りなんだよ」
天気も良好なお昼過ぎ。
ティエドール元帥に連れられて、私と神田は教団から少し離れた場所にある丘の上にやってきていた。
眼下に広がっているのは、色とりどりの花々。
ニューヨークの1月は寒かったけれど、教団本部の近くは割とほのかに暖かい。
それも来月には引っ越してしまうから、貴重な気候だけど。
とにもかくにも一面花畑の其処は、教団とはまるで別世界のようにも見えた。
「…帰る」
「あれ? いいのかい、ユーくん。それじゃあ代わりにアート・オブ・ユーくんを使わなきゃいけなくなるけど」
嫌そうな顔をして背中を向ける神田に、きょとんと元帥が声をかける。
するとたちまち神田の足はその場に縫い付けられたように止まった。
これ何度目のやり取りだろう。
余程ティエドール元帥に我が子扱いされるのが嫌なのか、始終反発していた神田だけど。元帥が自らのイノセンスを使って造り上げた"アート・オブ・神田"を見せられた途端、顔は青くなった。
アート・オブ・神田とは、本物そっくりに造られた等身大のレプリカ人形のこと。
ただ唯一本物と違うのは、その表情。
思いっきり、素敵なまでに笑顔なんです。
あの神田の顔で。ピース付きの満面の笑顔。
本人を知ってる私からすれば、清々しいまでに違和感があって気持ち悪い。
「元帥の描くものは風景ばかりかと思ってました」
「人物も勿論、絵画の対象となるよ。素敵な顔をしていれば誰でもね」
元画家である元帥が散歩と称して連れ出した目的は、神田の描写らしく。
我が子のように大事に思ってる神田が、元帥曰く生き生きとした表情をしていたなら、描写の一つもしたくなるんだろう。
本当に大好きなんだなぁ、神田のこと。
勿論神田は凄く嫌がったけど、あの満面笑顔の神田レプリカを描かれて周りに見せて回るくらいならと、渋々重い足を此処まで運んでいた。
でも顔は、すんごく怖い。
眉間の皺がくっきり浮かんでいて、到底元帥の望む表情とは思えない。