My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「改めて詳しいことは後日連絡するから。逃げようなんてしないでよね、その時はもっと面倒な仕事当てるよ?」
「…マジかよ…」
「…ヒ…」
「ご愁傷様、だな」
「あ?何他人事みたいな顔してんだテメェ!」
(だって他人事だし)
と言えば目の前のパンク少年は激怒の噴火を起こすだろう。
わかり切っていることに火を焚き起こす気もないと、ティキは早々腰を上げた。
「あ、煙草切れちまった。買ってくるわ」
「ヒー!絶対ウソだ!」
「煙草ならもっと良いのがあるよ?」
火を焚き起こさずとも噴火する双子を視界から外し、そそくさと去ろうとする。
そんなティキの目の前に高級葉巻の木箱を持ち上げたのはシェリル。
流石豪邸の主とでも言おうか。
しかしティキの目は興味無さげに葉巻を一見しただけだった。
「俺、馴染みある銘柄の方が落ち着くから」
「そう言わずに、案外吸ってみたら好む味かもしれないよ」
「だから───」
(この場にいたくないのだと、そうはっきり言えばよかろう)
「………」
「ティッキー?」
突如ティキの頭に流れ込んできた他人の声。
耳に囁きかける訳ではない、ダイレクトに頭に流れ込んでくる声に一瞬ティキの動きが止まる。
しかし驚く様子は見せず、シェリルの視線も介さず無言のまま。
(急に声掛けてくんなよ、覗き魔野郎)
悪態を突いたのは、脳内の声の持ち主へ向けて。
(のの…酷い言い草だのう、御主はいつもいつも)
(お前がいつもいつもそうやって頭ん中に潜り込んでくるからだろ。ワイズリー)
声に出してはいないが、確かに交わされる二つの思考。
ティキの脳内に意識を滑り込ませているのは、魔眼という特殊な能力の持ち主である青年。
(お前、何処にいんだよ。シェリルが捜してたぞ)
(むむう、デザイアスか…今行くと奴に風呂に放り込まれ兼ねんからの。ワタシのことはそっとしておいてくれ)
彼の名前はワイズリー。
"この場"ではワイズリー・キャメロットと成る、シェリルがロードの次に養子に迎えた青年である。
(此処でのママゴトはワタシには空気が合わん)
しかしそれは仮初の姿。
この場で貴族を名乗り"人間"として暮らしている彼らは、人でありながら人ではない。
ただ一人、トリシアを除いて。