My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
人類最古の遺伝子を持つ使徒───〝ノア〟
この豪邸に住まう貴族のほとんどがその遺伝子を宿した一族であり、人としての仮面を被り生きている。
そのことを知らずに此処で生きているのは、常人であるトリシアくらいだろう。
「どうしたのさ、ティッキー。急に黙り込んで」
「…お尋ね者の出所でも割り出そうかと」
「お尋ね者?」
(むむむ?変なことは言うなティキ!)
やがて脳内に投げ掛けていた声を表へと切り替えると、ティキが意見したのはその脳内の声の持ち主を割り出すこと。
途端に脳内のワイズリーが慌てた。
(デザイアスに見つかれば厄介なことになろうに!)
(なればいいだろ。その方が俺は楽に過ごせる)
(むう…っワタシは御主の為に声を掛けたのだぞ)
(知るかそんなこと)
(ならばいいのか。"夢路"の時間だと言うのに)
白けていたティキの表情が、ぴたりと止まる。
(往く時は声を掛けよと言っておっただろう。折角誘いに来てやったと言うのに、その態度はなんだ)
「………」
「ティッキー?やっぱり変だよ、具合でも悪いのかい?」
「…いや」
僅かな沈黙を溜息で閉じると、ティキはくしゃりと無造作に癖ある髪を掻き上げた。
「まぁ、そんなもんかも」
「え?本当に?」
「大丈夫ぅ?」
首を横に振ったかと思えば、急に具合は悪いと言う。
シェリルとロードが心配するもティキは軽く笑みを向けると、ひらりと片手を振った。
豪邸の外へと向かおうとしていた足は、トリシアと同じく屋敷内へと向けて。
「少し寝かせてもらうわ。客室借りてもいいだろ?」
「それは構わないけど…いつもの部屋を使うといいよ」
「どうも、兄サン」
「大丈夫デスカ?ティキぽん♡」
「少し寝不足な程度だから、一眠りすれば良くなりますよ。席を空けます、千年公」
軽く会釈してあっさりとその場を去る長身の背中を、追う者など一人もいない。
「マジで逃げやがったあのヤロ…」
「ただお昼寝したいだけじゃん…」
ギリギリと歯軋りしながら見送るジャスデビの隣で、じっとその背を見送っていたロードが不意に口元を綻ばせた。
「ふぅん?」
可愛らしい少女の笑みなどではない。
くすりくすりと意味深な笑みで染めて。