My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「あれ…処分したら、戻るの?」
ユウに体を預けたまま、背後に転がっている人形の首を視界の隅に捉える。
「そういう指令だろ。リナから」
それはそうだけど…
「なんだ、戻りたくねぇのか」
応えに渋っていれば、また先を読んだユウに真意を突かれた。
戻りたくないというか、あの中に戻れば…こうしてユウに触れる機会はなくなる訳で…
………。
駄目だ、思いっきりユウへの甘えたスイッチが入ってしまってる。
言われた通りに素直さを出したら、引っ込みが付かなくなってしまった。
我ながら情けない。
「っ」
「?」
がばっと勢いよく身を起こして、パン!と両手で頬を叩く。
自分に自分で渇を入れて、どうにか甘えを追い出した。
きょとんと見上げてくるユウに申し訳なくも笑いかける。
「ごめんね、我儘。皆も待ってるだろうし、戻ろっか」
伸し掛かってる体を退かそうと腰を浮かせば、ぐっと真逆の力に引かれて再び腰は沈んだ。
…え?
見れば、私の腕を掴んで上半身を起こしたユウが、真っ直ぐに私を見ている。
「どうせ酒も入ってるしもう真夜中だ、寝落ちてるだろ」
「それは…そうかもしれないけど───」
「我儘じゃねぇよ」
声が詰まる。
「お前のそれは我儘じゃない」
偶にある。
言葉数の少ないユウが、短い言葉ででも的確に私の心の柔く弱い箇所を撫でていく時が。
自分の情けないと思っていたものを優しく撫でられて、肯定される。
醜いと思っていたものを、綺麗だと認めてもらえる。
偶にある、ユウの言葉に救われる時。
「だから悪いなんて思うなよ」
「…うん」
近付く顔が、唇が、優しく額に触れる。
…おでこにキスして貰うのは、いつも何か少し特別な時のような気がする。
「部屋に来るか」
え?
「あれ、処分し終えたら。どうせまた好き勝手遊んでるだろうし、あいつらは俺らのことなんて気にしてねぇだろ」
思いも掛けないユウの誘い。
真っ直ぐに見てくるユウの闇より黒い瞳に、捕えられる。
「来るか、俺の部屋」
何故だか、鼓動が速まった。