My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「なら退け」
そう言われて、再度今の体制を思い出す。
思いっきり倒れ込んだユウの上に乗っているのに、催促する声はきつくない。
…怒ってない。
そういえば、ホラーにビビってユウを押し倒すなんて…ジェリーさんの言う通りになってしまったけど…
「もう怖くねぇだろ」
てっきり、怒るか呆れるかするかと思ってたけど。
ユウの反応はどっちも違っていた。
「ここまでビビる姿は初めて見た気がするけどな」
思い出すかのように、ユウの口元が弧を描く。
思い出し笑いされるのは恥ずかしいけれど、今はユウのその笑顔に目が止まってしまった。
「呆れた?」
「いや。そこまで潔くビビられたら笑う」
「笑うって…」
「馬鹿にしてねぇよ」
あ。
先を読まれた。
「案外可愛いもんだと思って」
「………案外って、何」
あ。
可愛くない。
折角ユウが可愛いって言ってくれたのに…照れが先に感情を押し出してしまった。
「それじゃ不服かよ」
なのにユウは拗ねる私に優しい目を向けるだけ。
まるで手取り足取り読まれてるみたいで、照れも増すけど…優しい声には胸が熱くなる。
「…不服です」
「どこが」
「可愛いと思うなら、もうちょっと優しくして下さい…」
「してるだろ、充分」
「…ん」
「?」
もっと素直さを出せって言ったのはユウだから。
今の感情に素直に身を任せることにした。
「凄く怖かったので、もう少しこうしてて下さい」
伸し掛かった体に再度ぴとりと身を寄せる。
ぽそぽそと告げれば、静かな沈黙の後。
「これでいいか」
また、あの優しい手が背に触れた。
「…頭も」
「頭?」
「よしよし」
「…はいはい。よしよし」
笑う声。
優しく頭を大きな手で撫でられる。
偶に出てくる、甘えたい欲。
堪らずそういう欲を出すと、ユウはこうしてちゃんと受け止めて応えてくれる。
自分が小さな子供になってしまったような、そんな感覚も少しある。
でも幼かった頃にどんなに切望しても貰えなかったものを、こうして貰えるから。
だから胸は凄く熱くなる。
だから…甘えてしまうのかな。