My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「おい!雪ッ」
傍でユウが私を呼ぶ声がするけど、応える余裕なんてない。
いくらなんでもこれはホラー系の類に強い人でも驚く。
絶対驚く。
目の前の体にしがみ付いたままガタガタと震えていれば、怒り任せの強い手が───
「ったく…ビビリ過ぎだろ。落ち着け」
…違う。
優しい声と手だった。
あやすように背中をぽんぽんと撫でてくる。
降ってくる声も、溜息混じりだけど怒ってない。
恐る恐る顔を上げる。
目の前にはユウの顔。
それも何故か、私の目下にある。
あれ…勢い余ってユウの体を押し倒してた…?
しがみ付いていた体に伸し掛かる体制で、ユウの腹部に跨ってる。
……思いっきり押し倒してたみたい。
「よく見ろ。ただの人形だ」
「…ぇ…?」
ユウの目が私から後方に向く。
恐る恐る、もう一度振り返って捥げた首を確認してみる。
薄暗い実験室の中。
地面に転がった生首は、切断面を赤黒く映していた。
ち…血じゃないの、あれ…本当に人形なの…っ?
「見たところ、蝋人形と類似したもんだな。リアルな出来とは聞いてたが、あそこまで似てたら確かに驚きはするだろ」
「蝋人形…」
ユウの冷静な声に、段々と頭の中の混乱が落ち着いてくる。
じっと目を凝らして見れば、首の切断面の赤黒さも骨のようなものも、作られたもののようだった。
仕事柄…死体を見ることは多いから。
落ち着いて見れば、それが偽物であることは理解できた。
…でもこんな薄暗さと雰囲気に呑まれれば、本物と見間違えても可笑しくないけど。
寿命、縮まった。
「あれがリナリーの言ってた人形?」
「だろうな」
確かに、整った顔立ちやツインの髪型はリナリーを思い起こさせるけど…何故に蝋人形なんかで作ったの怖い。
コムリンみたいな機械類の方がまだマシだ。
「持ち帰るにはでか過ぎる。リナは処分したがってたから、此処で処理していくか」
「え、勝手にしていいの、そんなこと…」
「じゃあ運ぶのか、あの生首と体」
「処分しよう」
ごめんなさいコムイ室長。
私、あんまりあれに触りたくない。