My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「───あ」
ユウと食堂を出ようとすれば、見知った緋装束を見つけた。
あんなに真っ赤な服、黒尽くめのエクソシストや白い白衣やマントの科学班やファインダーより目立つ。
そして何より目を止めたのは後ろ姿。
あれは───
「ユウ、ちょっと待ってて」
「は?おいっ」
それだけ声を掛けて、咄嗟にその後ろ姿に駆け寄る。
ユウの声には振り返らなかった。
「トクサっ」
食堂近くの廊下を歩いていたのは、あのトクサだったから。
少し大きめの声で呼び止めれば、すんなりと足を止めてトクサは振り返った。
いつもの瞑った目を少しだけ開いて、私を映してる。
「よかった、丁度良い所に」
「………」
テワクに言われた通り、本人に言わなきゃ。
こういうことは時間を掛ける程言い難くなるから、見つけられてよかった。
「トクサ、さっきは───」
「首」
「え?」
「自分で手当てしたのですか?」
「ぁ…うん」
謝ろうとした言葉は遮られた。
トクサの目はじっと私の首を見つめていて、そこから逸らそうとしない。
「痛みは」
「あんまり」
「嘘を仰い」
「本当だって」
「痩せ我慢は止めなさいと言ったでしょう」
「だから本当───痛い!?」
本当にそんなに痛くないから言ったんだけど。
伸びたトクサの手がキリリと首の皮膚を包帯の上から抓ってくるものだから、悲鳴が漏れた。
痛いからそれ!
嫌がらせ!?
「やっぱり痛むんじゃありませんか」
「それはトクサが抓ってるからで…ッぁだだ!」
「ですが落ち着いたようではありますね」
「っは…い?」
抓られる激痛は一瞬だけだった。
すんなりと退いた手を背の後ろで組んで、にっこりとトクサが笑う。
「もう追いかけても?」
追いかける?
"今は、追いかけて来ないで"
…あ。
それ、私がトクサに投げ付けた言葉だ。
「あれは…その場の勢いと言うか…少し、言い過ぎた。ご」
「謝る必要はありません。あの場で漏れたのは、貴女の本音だったからでしょう。自分の意志を曲げてまで私を立てる必要などありますか?」
謝罪の言葉は再び遮られた。
淡々とだけれど、譲らないトクサの声に咄嗟に何も返せなかった。
本音と言えば…確かに、本音だったから。