My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「あの、ここまでしなくても…っ」
「ここまでしねぇとお前隠すだろうが。じっとしてろ」
「っ…そうだ!報告書っ」
「もう終わった」
「え、もうっ?」
どんなに足掻いてもユウは折れる気はないらしい。
まるで子供を相手にするかのように、ユウに背を向けた状態で軽々と膝に座り直させられる。
「沁みたら言えよ」
「は、早い色々とやることが…っん、」
本当に早業だからっ
また消毒液をたっぷり浸した綿でも押し付けてくるのかと、慌てて首だけ捻ればひんやりと冷たい触感。
肩にできた傷口に触れるユウの手が、軟膏らしきものを擦り込んでいく。
いつの間にそんな物手元に置いてたの。
本当に色んな意味でテクニシャン。
それは手当てを施す手付きもそうだった。
前は荒くてひたすらに不器用だったけれど、今も少し粗は感じるものの痛みは然程なくなった。
「小さな傷だよ、そのくらい…」
「そうやって見過ごすから、あちこち擦り傷が残ってんだろ」
「…前にこの体綺麗だって、ユウ言った」
「だからって新しい傷作っていいなんて言ってねぇ。お前だって俺が怪我すると文句垂れるだろうが」
「ぅ…」
それを言われれば返す言葉がない。
「怪我すんなとは言わない。でも傷を放っとくな。俺とは体の造りが違うだろ」
「…それは…そう、だけど…」
それはユウが特別であって、私の体は極々一般的な人間の機能というか…
「あ。でも私もノアの能力が出てる時は、そんなに痛まないというか…体が頑丈になってる気がする」
そういえば、そうだ。
最初に気付いたのは、ヘブラスカの導きでイノセンスの結晶に焼かれた時。
今日のマダラオの白羽だってそうだった。
最初は我慢ならない痛みに身を引き裂かれるような思いをしていたのに、激しい怒りを覚えた時は体がその感情に塗り潰されるかのように、痛みが薄れた。
…やっぱり、人間であるけど超人なんだ。
"ノア"という生き物は。
「………」
沈黙ができる。
何気なく口にした内容に、ユウは暫し反応を示さなかった。
もう一度首を捻って振り返れば、見えたのは難しい表情をした顔。