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My important place【D.Gray-man】

第16章 鳴かないうさぎ



「もう、いい加減…っ」


 ラビの手首を掴んで、いい加減やめさせようとした時。


「っ…!」


 急に襲ったのは、額への鈍い痛みだった。


「雪?」


 ズキンと重く響く痛みに、咄嗟に額に手を当てて俯く。
 流石に異変を感じたラビの手が、乱暴な撫でつけを止めた。


「オレそこまで強く頭撫でてないけど」


 違います、兎さんの所為じゃないです。


「ううん、大丈夫。ちょっと頭痛が酷くて」


 額に手を当てたまま、顔を上げて僅かに笑いかける。
 ズキズキとした痛みは右上の額からだ。
 まずいな…また出血したかもしれない。


「本当さ? なんか顔色悪ィけど…」

「大丈夫、大丈夫」


 顔を近付けるラビに、空いた手を振りながら横に体をずらしてラビと本棚の間から抜け出す。
 一応、絆創膏はしてるから、出血しても血が零れることはないと思うけど。

 額に刻まれた二つの十字傷。
 それは一体なんなのか。

 ゾンビ化事件が解決してから、婦長さんに診てもらおうと思ってたけど…あの赤い手形だらけの病棟の廊下を見た、婦長さんの顔は怖かった。
 それはもう物凄く怖かった。
 般若というか鬼というか仁王像というか、そんな顔していてとにかくひたすら怖かった。
 だからすぐには頼めず、頃合いを見て診てもらおうと思い直した。
 怒った婦長さん、本当に怖いんです。
 まだ神田に殴られる方がマシなくらい。


「資料、直してくれてありがとう」

「どうってことないさ。他にもなんかあれば言えよ?」


 未だ心配そうな目を向けて、気遣ってくれるラビに笑って返す。
 教団で特異な立場にいるけれど、ラビはやっぱり根本は良い人なんだと思う。


「あ。じゃあ」


 そんな中、ふと思い立った。
 神田の過去も知っているラビなら、この額の傷のことも何かしら知ってるかもしれない。


「一つ質問いい?」

「なんさ?」

「こういう十字の傷跡が額にできるのって、何かの病気だったりするのかな」

「十字の傷跡?」


 空中で、その形を表すように指先を動かして見せる。
 ぱちりと片目を瞬いたラビは、何か考えるように高い書庫室の天井を見上げて。


「それ、あれじゃねぇさ? ノアの聖痕ってやつ」


 視線を戻すと、さらりとそう告げた。

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