My important place【D.Gray-man】
第16章 鳴かないうさぎ
「全部が全部、そうじゃないけどな。オレは」
不意に声が近付いて、後ろから影がかかる。
見上げる暇もなく、後ろから伸びた手が抱えていた資料をあっさり取り上げた。
「確かにブックマンとして記録する情報に、情なんて向けちゃいけねぇけど。何も感じない訳じゃないさ」
振り返れば、すぐ其処に立っていたラビが易々と資料を高い棚の位置に戻し込む。
「知らなきゃよかったって思う情報も、偶にある」
棚から私に向けられた目は、じっと見下ろして。どこか悲しそうに笑った。
「知らなきゃよかった情報?」
思わず問い掛ければ、返答は貰えなかった。
ただ、その目はじっと私を見たままだ。
片方しか見えない翡翠色の目は透き通っていて、時々見透かされているような気になる。
普段はとってもフランクだから、割と仲良くさせてもらってる方だけど…ラビのそういう目は、少しだけ苦手だった。
「そーさな。ユウと一緒で重たいもん抱えてるのに、微塵も見せようとしないで。オレみたいに笑ってる奴のこととか」
何、その漠然とした個人情報。
「アレン?」
「違うさ」
ぽんと手を打ち言えば、即座に否定された。
「あ。リナリー?」
「違うって」
もう一度ぽんと手を打ち言えば、またもや即答否定。
じゃあ一体誰ですか。
「そんな漠然とした情報じゃ、わからないよ」
「いいんさ、わかんねぇように言ってんだし」
「え、何それ。じゃあなんで言ったの。苛めですか」
「そーさな。苛めかもなー」
脱力するようにヘラと笑うと、わしわしと私の頭を掻き回すように撫でてくる。
ちょっ…髪の毛ぐしゃぐしゃになるから…!
「そいつは別の奴見てるみたいだし。オレの出番ない感じだし? なんかもー拗ねたくなるっていうかさー」
「だからって私関係なくないっ? 頭ぐしゃぐしゃなるから!」
「よーしよしよし」
「って無視!?」
私の声なんて綺麗に無視して、ラビの手がわしわしと頭を撫で続ける。
あれですか、ゾンビ化事件で子供扱いしたお返しですか。
私こんなに頭ぐしゃぐしゃ撫でてないですけど。