My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
一人の空間になれば、途端に静けさが襲う。
やっと一人になれたことにほっとしつつ、じわじわと洗剤に刺激される体中の痛みに雪は顔を顰めた。
溜息混じりにシャワーの栓に手を伸ばせば、鏡に映る自身の姿が視界に映り込む。
泡塗れの体は隅々まではっきりとは見えないが、首の周りを覆う赤い熱傷は確認できた。
恐らくトクサが手当てしてくれた昨夜より、酷いものにはなってしまったのだろう。
水脹れのような跡が痛々しい。
原因となったのは、紛れもなく雪の首を締め付けている小さなイノセンスだ。
父のものであろう、半端なイノセンス。
「………」
そっと指先で触れてみるも、小さな十字架は反応の一つも見せない。
ただの飾りと化している。
それでも毎日、朝方鏡の前でこの枷を見る度に、爆弾を抱えているようなものだと思っていた。
(…違う)
自身の姿は確認できなくとも、感覚とトクサ達の会話で悟った。
恐らくこの身はまたノアの兆候を垣間見せ、力を放ったのだろう。
聞いたのだ。
目が眩む程の眩い真白な光の世界で、自分を呼ぶ声を。
父の声かと渇望したそれは、許すなと囁き掛けてくるノアメモリーのものだった。
「…っ…」
小さな十字架を握り締める。
ふらつく足元を支えられず、タイルの壁に背を押し付けて俯いた。
爆弾のようなものだと思っていた。
煩わしいだけのものだと思っていた。
しかしそれは違ったのだ。
(爆弾は、私だ)