My important place【D.Gray-man】
第16章 ソレイユ.
額に刻まれた二つの十字傷。
それは一体なんなのか。
ゾンビ化事件が解決してから、婦長さんに診てもらおうと思ってたけど…あの赤い手形だらけの病棟の廊下を見た、婦長さんの顔は怖かった。
それはもう物凄く怖かった。
般若というか鬼というかとにかくそんな顔していて、とにかくひたすら怖かった。
だからすぐには頼めず、頃合いを見て診てもらおうと思い直した。
怒った婦長さん、本当に怖いんです。
まだ神田に殴られる方がマシなくらい。
「資料、直してくれてありがとう」
「別にどうってことないさ。他にもなんかあれば言えよ?」
未だ心配そうな目を向けて、気遣ってくれるラビに笑って返す。
教団で特異な立場にいるけれど、ラビはやっぱり根本は良い人なんだと思う。
「あ。じゃあ…」
そんな中、ふと思い立った。
神田の過去も知っているラビなら、この額の傷のことも何かしら知ってるかもしれない。
「一つ質問いい?」
「なんさ?」
「こういう十字の傷跡が額にできるのって、何かの病気だったりするのかな」
「十字の傷跡?」
空中で、その形を表すように指先を動かして見せる。
ぱちりと片目を瞬いたラビは、何か考えるように高い書庫室の天井を見上げて。
「…それ、あれじゃねぇさ? ノアの聖痕ってやつ」
視線を戻すと、さらりとそう告げた。
…ノア?
「ノアって…あのノア?」
「千年伯爵のな。ノアの一族には、額に十字模様の聖痕があるんさ。こう、一列に」
前髪を掻き上げて、自分の額を一直線になぞりながら説明する。
まさか。
そんなラビの言葉は、すぐに私の脳内で否定された。
「それ以外には? 何かある?」
「うーん…オレが知ってる情報じゃあ、当てはまんのはそれだけかなー…」
まさか。
そんな訳ない。
「…そっか」
「なんでそんなこと知りたいんさ?」
「ううん。ちょっとね」
持ってきていた灯りを手に、背を向ける。
「ありがとう、ラビ。私もう行くから。あんまり夜更かし、し過ぎないようにね」
「ああ、うん…」
顔だけ振り返って礼を言う。
見送るラビはまだ不思議そうにしていたけど、それ以上追求はしてこなかった。