My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「───痛い痛い痛いッ!」
「煩いですわね。兄様との手合わせに比べれば撫でるようなものですわ」
「どこが!?傷跡に洗剤擦り込む行為が!?なんの拷問!」
「仕方ないでしょう、全身汚いんですもの」
「人を汚物のように見ない言わない!傷付く!体以上に心が傷付く!」
「それだけ軽口叩けるなら平気ですわね」
「平気じゃ…だから痛いッ!」
ごっしごっしと遠慮のない力で、体の隅から隅までスポンジを押し付けられ泡だらけに洗われる。
身形を綺麗に、とテワクが雪を引き摺った先は、教団の公共浴場だった。
個室のシャワー室に放り込まれたかと思えば、あれよあれよと体を剥かれて全身を洗われる。
美少女に手取り足取り世話されるのは嫌な気はしないが、如何せん扱いが雑だ。
トクサの丁寧な手当てとは天と地の差があった。
「医務室に行くかと思ってたのに…っ」
「手当ては自分でするのでしょう?」
「それは…まぁ…じゃなんでお風呂場」
「わたくしは汗臭い貴女の傍で監視したくなかっただけですの」
「自分の為!」
「当たり前ですわ。貴女に掛ける慈悲などなくってよ」
世話はしているものの、雪への冷たさは変わらず。
淡々としたテワクの物言いに、雪は荒げていた声を抑えた。
「…別に。そんなもの要らない」
同情なんて嫌いだ。
そう胸の内だけで呟いて、唇を噛み締める。
泡だらけの手でテワクの体を押し返すと、やんわりと雪は距離を取った。
「言うことは聞くけど、私は貴女達の人形じゃない。暇潰しに構うのはやめて」
突き放すような雪の言葉に、テワクの手が止まる。
「…暇潰しではありませんわ」
「どう見たって遊んでるでしょ」
「貴女、女でしょう」
「…はい?」
「貴女はどうともなくても、貴女の身形に気を止める者が一人くらい、此処にはいるのでしょう?その者の為に身形くらい、整えていたらどうですの」
テワクの目は雪ではなく、水垢の一つもない真っ白な床のタイルに向けられていた。
じっと水の流れを追うテワクの顔に、先程までの凛とした雰囲気は見えない。
水に映るは自身の顔。
果たしてその言葉は、誰へと向けられているものなのか。
「女として失格ですわよ」