My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
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「ハァ…全く。肝が冷えましたよ」
「縛羽は発動させていた」
「そうでしょうけれど、実質月城の力で部屋が崩壊しかけました。私達が結界を張るのがもう少し遅ければ、教団の者達にも影響が出ていたかもしれません」
「そうなれば目が届く前にあれを殺すまでだろう」
「それはそうですが…」
重い溜息を今一度零しそうになって、トクサは咄嗟に呑み込んだ。
地下の第二修練場の空間には、四方隙間なく宙に浮いた無数の札が張り巡らされている。
マダラオに呼び起された雪のノアの力は、枷となっているイノセンスと反発したのか、エネルギーの膨張と衝撃を放った。
間一髪鴉の札で抑え込んだ為、衝撃は最低限のもので済んだが、果たして他の団員達に影響はなかったのかどうか。
呑み込んだ溜息の行き場を探すかのように、トクサの目が辿ったのは唯一床に伏せ倒れている人物。
手足や胴、顔や背中。
体の至る所にびっしりと鴉の札を貼り付け縛られた、雪の姿。
口も目も札で覆われた彼女は、意識があるのかさえわからない。
ただぴくりとも動かない雪の肌が、褐色を緩やかに抑え肌色へと溶け込んでいくのだけを見て取ることができた。
「…だからまだ白羽は早いと」
「戦争は待ちはしない」
「……わかっています」
唯一肌に縛られず見える首元で、強く光り続けていたイノセンスの発光が落ちていく。
昨夜手当てしたばかりの首に巻かれた包帯は、高圧のエネルギー衝撃によって焼き切られてしまった。
昨日より痛々しさを増した雪の首の焼け跡に、トクサは零れ落ちる溜息を止められなかった。
「今日はここまでにしましょう」
トクサの提案に異論はないのだろう、そこで初めてマダラオは無言を貫き通した。
「月城、起きていますか」
倒れ込んだ雪の前で身を屈め、ぺちぺちと呼び起こすように頬を叩く。
ぺりり、と目元を覆う札を剥がせば、二つの目は静かに瞼を持ち上げた。
どうやら気を失ってはいないらしい。