My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「な、なんさ地震っ!?」
「わわ…っ!」
慌てて互いのバランスを取りながら、腕を掴み支え合うラビとリナリー。
然程大きな揺れではない。
しかし確かに地面を揺らす振動に、ぱらぱらと高い天井から塵が落ちてくる。
それはものの数秒程だった。
やがて何事もなかったかのように治まる地響きに、驚き固まっていた広場の人々もほっと胸を撫で下ろした。
いくら戦闘に特化した者達でも、天災相手となれば太刀打ちなどできない。
「なんじゃ、気が削がれたのぅ」
「なら返せ、髪紐」
「ああ…ボケが酷くて何処かに落とし」
「返せ」
「…年寄りの冗談じゃろうて…怖い顔するでない」
ギロリと殺気立った目を向けてくる神田に、渋々とブックマンは懐に隠していた髪紐を取り出し手渡した。
昔に同じように神田と組み手を交え、戦利品として髪紐を頂いた時は「失くしてしまった」の一言で諦めていたと言うのに。
あの時頂いた髪紐を後に教団内のオークションに出せば、神田の所有物と言うだけで馬鹿高い値が付いた。
またこっそり儲けようと思っていたブックマンの下心は、今回は失敗に終わったらしい。
「なんじゃ、もうやらんのか?」
「充分汗は掻いた。休む」
ブックマンの手からひったくるように髪紐を奪うと、途端に興味を失くしたように背を向ける。
強い相手と一戦交えるのは好んでいるが、またそれで髪紐を奪われては堪らない。
格闘広場を後にしながら手早く髪を一つにまとめ、ぎゅっと髪紐で固く結ぶ。
まだ多少の動揺は残っているものの、神田同様広場にいる者達は地震への脅威を静め、再び活動を再開していた。
「………」
ただ一人。
広い広い修練場の隅。
「どうした?アレン。急に黙り込んで」
「……いえ」
マリと組み手を交えていた少年だけは、神妙な顔で揺れの治まった床をただただ見つめ続けていた。
「なんでもありません」
地響きと共に伝わってきた、知らないようで知っているような奇妙な感覚に、不安を抱いて。