My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「残念さな、此処にアレンがいなくて」
「っそれならラビもでしょ」
「オレ?」
「休日の時は神田と組み手してる姿、よく見てたけど。今日は雪がいないから」
「ああ、雪は別件で立て込んでるからなー」
「サードとの訓練でしょ」
「なんさ、リナリー知ってたんか」
「兄さんが話してたのをね。聞いたの」
ラビの胸元から手を離すと、リナリーは憂鬱な溜息を一つ吐いた。
「雪が変わらず教団にいてくれるのは嬉しいけれど、やっぱり少し…」
「不安?」
「…少し、ね」
力のない笑みを浮かべるリナリーは、それでも気丈に振る舞おうとしている。
常に周りを気遣う優しき心を持つ少女だからこそ。
そんなリナリーを励ますように、ラビはいつもと変わらない笑みを浮かべた。
「大丈夫さ。ジジイがついてっから」
「ブックマンが?」
「ジジイなら雪とサードの訓練も見学できるからな」
ブックマンとしての位置を守り続けるならば、と記録することはルベリエから許可が出た。
正しそれはブックマンのみ。
「お前にはまだ早い」と師に突っ撥ねられ、ラビは不参加の身となったのだ。
不服ではあったが、自分の倍以上の経験値を持つブックマンが雪の傍にいるのなら、少しだけだが安心は増す。
恐らく雪が強いられる訓練はルベリエの命の下だ、決して生易しいものではないだろう。
それを自分は冷静な目で直視できるのか、ラビにも自信はなかった。
「でもブックマン、あそこにいるわよ」
「……へ?」
それまで一様に表情を変えなかったラビの笑顔が、ぴたりと止まる。
リナリーがあそこ、と目で促した先を追えば、其処は格闘技広場の中心。
「もう一本だ、じーさん」
「ほっほっほっほ♪来るがいい、神田。組み手ならまだまだ若いモンに負けはせんわ!」
いつ姿を現したのか。
多少息を乱す神田の前で余裕のある笑みを浮かべて対峙する、ブックマンの姿があった。
「…何してんだあのパンダ…」
ラビの顔が引き攣る程の、それは嬉々とした師の姿。