My important place【D.Gray-man】
第16章 鳴かないうさぎ
「これ、言わない方がいいかな…」
大きな書庫室の隅で一人、再度膝に抱いた資料を見る。
神田の体のことだけじゃなく、色々と余計に知ってしまったような気がして、なんとなく申し訳なく思ったけど。
多分神田のことだから…同情を嫌う性格だし、変な意図は何もないはず。
自分のことを知ってほしいから、じゃなくて。きっと私が知りたいと思った気持ちに応えてくれただけ。
それなら調べた報告なんて、無闇にしない方がいいかも──
「誰に言わない方がいいって?」
突如投げかけられた声に、心臓が跳ねた。
「なっ…!」
「よっス」
驚き振り返った視界に映り込んだのは。
明るい髪色に、高い背丈。
片方だけ見える目は、鮮やかな翡翠色。
「夜中にこんな所で調べものなんて、怪し過ぎさ。雪」
次期ブックマン後継者の、ラビだった。
「あ、それな。オレも初めて知った時は驚いたさー」
「ラビ、知ってたの?」
「もち。オレの本職はブックマンだし。歴史の表も裏も記録すんのが、オレの役目さ」
夜も遅い教団の書庫室。
その中で出会ったラビは本職の仕事をしに此処へ来たらしく、必要な文献を探していたところ私を見つけたらしい。
読んでいた資料を目敏く見つけられて、どう言い訳しようかと思っていたら、あっさりいつもの軽い口調でラビは言い切った。
神田の過去を知っていることを。
「中々ヘビーな内容だよなー。そんな生い立ちじゃ、あんな性格になんのもわかるさ」
うんうんと頷くラビに、どう返していいかわからず口篭(くちごも)る。
確かに、そう言われればそうかもしれない。
絶対とは言い切れないけど、神田の周りで起こった悲劇が今の心を作ってしまったのかも。
でも。
前ならはっきりと冷徹だの暴君だの言えたけど、今はそうは思わない。
確かに人より乱暴な物言いや行動をするけど、それでも神田なりの優しさや心遣いを知ったから。
酷い生い立ちだから、なんて言葉で片付けたくない。