My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「………」
「…あ、あの…大丈───」
じっと手に付着した血を見続けるマダラオが気になって、思わず声を掛けた。
上がる顔に、視線が交じり合う。
瞬間、その足は地を蹴り上げていた。
「っ…!」
咄嗟に両腕を顔の前で交差させて盾を作る。
殺気は一直線に交じり合った視線目掛けてやってきたから。
だけど目の前まで急速に距離を詰めたマダラオは、体を大きく捻ると片足を突き出した。
ドッ…!
「あぐ…ッ!」
叩き込まれたのは無防備だった腹部。
蹴り上げられた体が後方に飛ぶ。
「げほ…ッ!」
「言っただろう。敵が血を流せば貴様は声でも掛けるのか。これは訓練ではない、実践だと思え」
横倒しに倒れ込んで咳き込む私の視界に、マダラオの靴が映る。
額を伝う己の血なんて全く気にしていない。
淡々と冷たい目と声を向けてくるマダラオを、今の私は見上げる余裕もなかった。
嘔吐感に咳き込んでいれば、更に近付く気配。
ぐ、と首を大きな手で鷲掴まれた。
「ぅ…ッ」
軽々と猫でも持ち上げるかのように、片手でマダラオが私を空中に吊るす。
握られているのは私の首だ。
強制的に食道を塞き止められ、詰まる息に足がバタついた。
苦しい。
「ぁ、かは…ッ」
「一本ですよ、マダラオ」
「甘えた思考のままだから実践でなんの役にも立たんのだ。一から叩き直してやる」
トクサの声にも耳を貸さない。
淡々と告げるマダラオの手に必死に爪を立てる。
なのにビクともしない。
苦しい。
このままじゃ窒息してしまう。
「己が力を欲せ。我が物にしろ。それが出来なければ、貴様は狗にも成り得はしない」
「ッ…!」
「マダラオ、そこまでです」
「"白羽"」
「マダラオ!」
白…羽?
聞いたことのない術名。
───パチッ
刹那、チョーカーの十字架が小さな摩擦を起こした。