My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「訓練のこと、すっかり忘れてた…」
「何度目ですかその台詞。いい加減諦めて誠意を見せてくれませんか?」
「相手が無言で威圧放ってこなければね。見てよトクサ。怖いんだけど、マダラオの顔」
「兄様の顔は正常ですわ。ノア風情如きが偉そうなことを」
「ゴメンナサイ」
ちょっと怖いって言っただけじゃん。
無言で射抜くような目を淡々と向けてくるんだから。
ちょっと止めてほしいなぁって思っただけじゃん。
なんでそこまで言われなきゃならないの、相変わらず口悪いなテワク。
というかこの場合、テワクが私自身に敵意剥き出しな気がするけど。
パリで対峙したテワクをノアの力で拒絶してしまってからというものの、この見た目金髪フリルのお嬢様みたいな美少女に嫌われてる気がしてならない。
「いつまで突っ立っている気だ。実力を見ると言っただろう、来い」
「はいはい…」
仕方なくユウ達と別れて、トクサと共に訪れた場所。
それは教団に設置された、修練場と同じ造りの広場だった。
でも周りに普段は賑わっている、体を鍛えるエクソシストやファインダー達の姿はない。
此処は教団の地下に設置された、第二修練場。
普段よく使われている第一修練場とは違い、特定の理由がある時にしか使われない。
今此処にいるのは、サードエクソシストであるトクサ、テワク、キレドリ、ゴウシ、そしてマダラオの鴉と私含めて六人だけ。
ルベリエ長官の指示の下、私の総合訓練はいつもこの面子で行われる。
サードエクソシスト複数を一人で相手にするなんて結構な精神力を使うんだけど、そういうことも言ってられない。
此処で行う日々の訓練も、ルベリエ長官と交わした契約の一つだ。
私が"狗"として生きる為に、必要なこと。
いつも私の相手をしてくるのは、今日も今日とて姿勢良く広場の中央で静かに体を斜めに変えて構えるマダラオ。
訓練の基本は彼との組み手から始まる。
ユウとは別の意味で容赦ないからなぁ…終わった後はいつも体が青痣だらけになるんだけど。
仕方ないと向き合った彼の目は、いつも以上に底冷えしている気がした。
トクサから聞いたんだろうな…私のノアとしての力不足のこと。
「…っ」
思わずごくりと生唾を呑み込む。
なんだか、嫌な予感しかしない。