My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
忌々しそうに私を見ながら、それでも意外にもトクサは話を逸らしたりしなかった。
「貴女だって"使徒"の一人でしょう。人類最古の使徒〝ノア〟の遺伝子と記憶を受け継ぐ者。私には同じですよ」
「…だから私にも喧嘩腰なの…」
「喧嘩腰とは失敬な。無闇に馴れ合わぬよう、的確な距離を置いていると言って下さい」
「その距離を破壊して寧ろずけずけ踏み荒らされてる気がするんだけど」
いっつもいっつも嫌味ばっかり言ってくるんだから。
「それに…不可抗力でしょ。私はなりたくてノアの使徒なんかになったんじゃない」
「それは貴女の思いの一つに過ぎません。なりたくなかっただの致し方ない事だなど、成ってしまえばただの戯言に過ぎないのですよ。持たざる者の気持ちなどわからないでしょう」
「………」
確かに、そうだ。
私はエクソシストに憧れてなかったから、力を欲することなんてなかったけど…教団で働いている人達の多くが彼らに尊敬を抱き、時には羨み畏怖している。
淡々と告げるトクサの言葉に上手く返す言葉が思いつかなくて、黙り込んでしまった。
…でも、それって。
「トクサは使徒になりたかったの?」
トクサも憧れてたのかな。
エクソシストに。
「…"力"が欲しかっただけです。せめて自分が歩む道を逸らさないでいられるだけの、"力"が」
丁寧に包帯を首に巻いていきながら、淡々と変わらない口調で告げるトクサ。
だけどその目は何かを思い描いているようにも見えた。
…その気持ち、少しわかる。
ノアになる前の自分がそうだったから。
弱者だからと言ってただ潰されていくだけの存在にはなりたくなかった。
「それは…聖戦を望む道?」
恐る恐る問い掛ける。
リンクさんはルベリエ長官の右腕みたいな存在だけれど、トクサはどうなんだろう。
中央庁での、彼の意志はどこにあるのか。
ぱちりと、包帯を金具で留められる。
離れる手に上げていた顎を退けば、真正面のトクサの顔がはっきりと見えた。
「それ以外にありますか?」
にっこりと狐のような顔で笑う姿は、いつものトクサのもの。
あ…仮面を被られた感じ、する。