My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「ノアの力を扱えるようになれば良い兆候でしょう。ただし公の場で覚醒するのだけは止めて下さいね。そうなれば最悪、強行手段を取らせて頂くことになりますが、それは貴女も不本意でしょう?」
ピ、と一枚の札を取り出し人差し指と中指に挟んで顔の前に掲げる。
トクサの顔を覆う"縛"と書かれた札に、無意識に眉間に皺が寄った。
思い出すのは、マダラオの札に雁字搦めに縛り付けられた時のこと。
あの時はまともに息もできずに、指一本だって動かせなかった。
「トクサ。司令室の前で脅しのような発言は止めろ」
そこへ話を割って入ってきたのは、いつもの敬語を外したリンクさんだった。
額の赤い黒子のような模様といい、同じ鴉という立場といい、何よりリンクさんの反応が、トクサ達鴉と顔見知りなことを物語っている。
なのに相反して、今まであまり積極的に話し掛けに行くような姿は見られなかったから。
普通に話し掛けただけなのに、そんなリンクさんの姿が物珍しく映った。
「脅しなどと滅相もない。───行きますよ、月城」
…あれ?
あんなに誰の言葉にも噛み付いていたトクサが、リンクさんには噛み付かない。
あっさりと退き下がるトクサを思わずガン見する。
これも珍しいなぁ…
「雪さん」
「ん?」
再三呼ばれて振り返る。
目が合ったのは、複雑な表情のアレンの瞳。
私とアレンの立場を思えば、きっと気に掛けてくれてるんだろう。
やっぱり優しいな、アレンは。
「手当ての最中にセクハラされたら大声出すんですよ。殴り飛ばしても構いませんから」
「ふふ。うん、そうする」
こうやってわざと砕けて話し掛けてくれるところも、そう。
アレンの気遣いに、安心させる意味でも笑って返す。
そこへふと、横から視線を感じた。
目線をずらせば、ずっと一人沈黙を貫いている人物を捉える。
「………」
目が合っても何も言わない。
だけど目を反らすこともない。
じっと向けられているのは、真っ黒な二つの眼。
無表情とは少し違う、難しい顔をしているユウを見て、少しだけ肩の力が抜けた。
あれは興味がないから黙っているんじゃなく、故意的に沈黙を作っているユウの姿だ。