My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「アレン」
「はい」
名を呼ぶ。
応える声。
「アレンが本当に私の弟だったら、絶対溺愛してた気がする」
「…はい?」
うんうんと頷く。
斜めに傾く声。
「なんですかそれ」
「だってこんなに恰好良くて可愛い弟、早々いない気がする」
絶対に周りに自慢できる弟になっただろうなぁ。
勿体無い。
自分の結論にうんうんと頷いていたら、不意にアレンの手がそっと私の手を取った。
うん?
きゅっと手を握られて、意識がそこに向く。
その間に、気付けばアレンの顔がすぐ傍にあった。
何───
「弟じゃないと雪は愛してくれないんだ?」
ぽそりと囁かれた声は耳元の傍で。
不意打ちで喰らった呼び名に、思わず顔が熱くなった。
「ん、な…ッ」
まともな返事をできないでいると、ぱっと手と顔を離してアレンは笑った。
いつもの紳士的な笑みじゃない、男の子の笑み。
「からかったお返しです。弟の前に、僕は男ですから。ね」
潔く身を退きながら口元に立てた人差し指を当てる。
最後に軽くウィンクをしたかと思えば、あっさりと背中を向け先を歩き出すアレン。
気障ったらしい仕草なのにチャラく見えず様になるのは、普段から紳士な姿が定着しているアレンだからか。
その一連の流れはあっという間で、ただ唖然と目で追うことしかできなかった。
気付けばドキドキと煩い心臓を、堪らず服の上から押さえる。
「……タラシだ」
あれでまだ10代だなんて。
大人になったら、凄い女っタラシになってそうな気がする…それもチャラくない方の。
だからこそ尚、タチが悪い。
アレンの将来が色んな意味でちょっぴり心配です、おねーさん。