My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
確かにその度に威嚇されたら、うんざりするよね。
でもアレンもアレンだと思うなぁ…ユウ相手だと売られる喧嘩全部買うんだから。
「ユウの短気なんて今更だから、スルーしちゃえばいいんじゃない?最初に名前のことでユウが喧嘩売った時、アレン大人な対応できてたでしょ」
「そうでしたっけ?」
「うん」
ハロウィンの夜に初めてユウが威嚇してきた時は、原因はわかっているけど黙っておきますって、綺麗にかわしてたのに。
あんなふうにアレンが回避できるようになったら、絶対に喧嘩も減るのにな。
「そうだったかなぁ…僕、神田相手だと割と条件反射で言い返しちゃうんですよね…」
思い出せないのか、頭を捻りながらぼやく。
アレンの表情を見るに、本当に思い出せないらしい。
まぁ…あの時は具合悪そうにもしてたし。
仕方ないか。
「そっか…なら残念だけど仕方ない。お姉ちゃん呼びでいいよ」
「だから僕は雪さんの弟じゃありませんってっ」
あ、そのやりとりはしっかり憶えてたんだね。
「仕方ない、じゃあ姉さん呼びでいいよ。もしくは雪姉。個人的に雪姉さんって呼ばれたい」
「どれも意味同じですから。そんなに弟が欲しいならティモシーで手を打って下さい」
「えー」
「残念そうな顔をしないっ」
あの時と同じやりとりに、つい顔が綻ぶ。
折角一歩近付いたのにと、思ったアレンの心は、やっぱり歩み寄ってくれたままだった。
だってアレンに対する蟠りのようなものは、もう何もない。
あの時思い切ってノアの話をして、よかった。
「それに…別にもう呼ばないとは言ってないし」
「え?」
不意に窄まるアレンの声。
つい漏れていた笑いを止めれば、ちらりともう一度神田の背中を見て。
それから、私を真っ直ぐに見てくるアレンの眼。
「約束してくれたから。僕の名前を呼んでくれるって。だから僕も、大事な時に呼ばせてもらいます。…その方がなんだか特別感ありますし、ね」
最後は照れたように表情を砕けさせたアレンだったけど。
一言一言、それこそ大切そうに伝えてくるアレンの声で、軽い気持ちじゃないことは伝わった。
アレンにとって、名前を呼んでもらうことってきっと凄く意味あることなんだろうな。