My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「何を仰いますか、ありますよ。彼女の今回の記録を元に訓練の改正を行わねばなりませんし。きちんと体へのイノセンスの影響は観ておく必要があります」
尤もなことを言ってるトクサだけど、私からしたら願い下げでしかない。
訓練の改正って…今でも充分スパルタなのに。
あれ以上酷いものになってしまったら、最早特別手当でも貰わなきゃやってられないんだけど。
「こいつの体は玩具じゃねぇよ」
ひやりと首筋を冷やしていた背後の気配が、重みを増す。
荒げてはいないけど、明らかな怒りを含んだ声。
「何を可笑しなことを。こんな危険な玩具などありますか」
「テメェの好き勝手に弄ってれば同じだろ」
「私の独断ではありません。これは教皇の意志なのですよ」
「馬鹿の一つ覚えみたいに、何かあればすぐ"教皇"。教皇が死ねと言ったら死ぬのかよ、テメェは」
「ええ」
怒りだけじゃない。
憎々しげな憎悪をも感じるユウの顔に、堪らず振り返る。
すぐ後ろにあったユウの顔は殺気を纏い、トクサを睨み付けていた。
…違う。
トクサの向こう側に在る"何か"を見ているような気がする。
それは…ヴァチカンの教皇、なのかな。
「この身が聖戦の糧になるのなら、喜んで差し出しましょう」
胸元に手を当て恭しい態度で返すトクサに、ユウの威圧が更に増した。
多分ユウとトクサは相性が悪い気がする…諸々の発言からして。
「ねぇ───」
「なー、喧嘩なんてやめろよあんちゃん達。皆無事だったんだしさぁ。早く帰ろーよ、腹減ったぁ」
ぴりりと張る緊張した空気。
止めようと口を開けば、それより早く響いたのは、盛大に愚痴を零すティモシーの声だった。
きゅるるる、と腹の音を鳴らしながら疲れた様子でぼやくティモシーに、張り詰めていた空気が乱れる。
気が削がれた様子で視線を逸らすユウに、トクサも興味を失くした様子で身を退く。
乱れた空気が落ち着いた。
「ありがとね、ティモシー」
「? 何が?」
「ううん、なんでも」
「?? 変なねーちゃん」
この時ばかりはティモシーに感謝した。
無垢な子供の存在って、時として偉大だ。