My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「そんなこと言ってません」
「言ったから、前の訓練中に。上手く扱えずにAKUMAかイノセンスに殺られて終わりだって」
「そんなこと聞いてません」
「都合の良い耳ですこと!」
何をいけしゃあしゃあと。
あんなに反対したのに、全く聞く耳を持たなかったのはトクサだけじゃない。
マダラオもテワクもキレドリもゴウシも皆同じ顔してた。
"そんなの知ったことか"って顔。
ルベリエ長官の言うことだけ聞く、正に中央庁の番犬だ。
私より狗って言葉ぴったりなんじゃないの。
「大体それくらいの痛み我慢できるでしょう。子供じゃあるまいし」
「じゃあ自分が喉元焼かれてみなさいよ」
急所をピンポイントで焼かれても悲鳴一つ上げずにいられるのか。
もうチョーカーは凄まじい高熱を放ってはいないけれど、焼かれた首元はじくじくとまだ少し痛み続けている。
あまりの不条理さに堪らずおっ立てた親指を下に向ければ、トクサは冷ややかな目を向けてきた。
「嫌ですよそんなの。誰がやりますか馬鹿ですか」
「すぐ馬鹿言う!なんで私が馬鹿発言した立場になってんの!?絶対不条理なこと言ってるのトクサだよね!」
「はいはい、耳元で叫ばないでくれませんか。そんなに痛いなら帰って手当てでもなんでもしてあげますよ。たっぷり消毒液垂らしてあげます」
「え。…いやいい」
「何を今更遠慮など。優しくされたいのでしょう?隅々まで診てあげますよ」
「いい。遠慮する。要らない」
狐みたいに、目は瞑ってるのににこにこと胡散臭く器用に笑う。
そんなトクサはユウの手当て以上に信用ならない。
「んなもん必要ねぇよ」
じりじりとトクサから後退っていれば、後頭部がトンと何かに当たった。
同時に真上から降ってきたのは機嫌の悪そうな低い声。
「イノセンスは確保した。AKUMA共も抹消した。後は教団に戻るだけだ、これ以上こいつに拘る理由がどこにある」
見上げれば、さらりと長いサイドの黒髪が視界の中で揺れる。
威圧感ある鋭い目は私には向いておらず、射抜くようにトクサを睨み付けていた。
すぐ背後に在ったのは、ユウの気配。
私に向けられていなくても、ひやりと首筋が寒くなるような気配だ。