My important place【D.Gray-man】
第16章 鳴かないうさぎ
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「…はぁ」
真っ暗な書庫室の奥。
その隅で資料を膝に抱いたまま、気付けば重い溜息をついていた。
見終えた資料の背表紙を閉じて、額に手を当て項垂れる。
神田が教えてくれた"第二使徒"の意味。
それは予想以上の衝撃だった。
第二使徒。
別名"セカンドエクソシスト"という。
人造使徒計画で造られた被験体のことで、その特徴は驚異的なまでの治癒、再生能力。
それはどんなに怪我をしてもすぐに完治していた、神田の体そのものだった。
人造使徒計画。
戦死したエクソシストの脳を別の肉体に移植して、新たなエクソシストを造り上げる計画。
言葉にすれば簡単だけど、内容は人徳を無視したような行為だ。脳を他人に移植するなんて。
戦死しても尚、戦場に駆り出される負の連鎖。
神田はその計画で生まれた存在。教団の意思で造られた存在だった。
普通に人として母親の体から生まれたんじゃなく、意図的に製造された存在。
一度死んだ脳を移植された使徒という器。
それだけでも充分過ぎる程の衝撃なのに。
「ALMA(アルマ)と…YU(ユウ)」
ALMA。YU。
その名を授けられた二体の被験体が起こした、"9年前の惨劇"。
それは重々しく私の心を覆いつくした。
「…簡単に突っ込んじゃ駄目だよね…」
額に手を当てて項垂れたまま、力無く零す。
今なら神田が拒絶した意味もわかる。
人が抱える心の傷に、大小なんてないと思ってる。
その人にとって心を潰されることなら、他人がどんなに軽視してもその人にとっては重みのある出来事だから。
抱える傷に重いも軽いもない。
でも、いくらなんでも。
これはあんまりだ。
「…っ」
床に座り込んだ体勢のまま、膝に顔を埋める。
「酷い」なんて言葉、簡単に吐けない。
「可哀想」なんて言葉、間違っても言えない。
生まれた意味も生きる理由も、全ては他人に定められてこの世に存在して。
そこで被験体の二人を待っていたのは、血に塗れた結末。
「…あんまりだよ…」