My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
(逃げる…?って、言ったの?)
すぐには理解できなかった。
否、言葉の意味は理解できたが、頭が追いつかなかった。
アレンは自分は14番目になんかならないと、コムイやルベリエ達の前で啖呵を切った男だ。
そうなった時は自分を殺せとまで言って、教団に残る意志を示した。
その彼が、何を言っているのだろうか。
困惑する頭は咄嗟に働かない。
微動だにできぬまま、雪は真っ直ぐに向けられた銀灰色の目から顔を逸らすことができなかった。
「独りじゃないと、僕に教えてくれたのは雪だ。独りじゃ越えられないことも、共になら越えられるかもしれない」
アレンの声は変わらず優しい。
しかし、彼には不釣り合いな言葉に聞こえた。
「教団もノアも関係ない、僕達の道を行こう。どちらかに付かないといけない理由なんてない。僕は僕で、雪は雪だ。それを証明できるのは自分だけでしょう?」
エクソシストもノアもファインダーも関係ない。
その想いで神田と繋がることができた雪には、アレンの言うことは痛い程に理解できた。
今の互いの立場を思えば、一番に理解し合えるのはきっとこの目の前の少年なのだろう。
頷きたくなる。
その手を握り返したい。
けれど、と同時に息が詰まった。
「…ごめん」
それはラビに想いを告げられた時と同じ。
この手に縋る方が、今よりも茨の道ではないかもしれない。
それでも心は変わらず向いているのだ。
ただ一人、想いが通じ合えた彼の人へと。
「私は、教団(あそこ)で守りたい人がいるから…逃げることはできない」
そっとアレンの手の中から自身の手を退く。
「私の正体も言い訳も全部受け止めて、呑み込んで、傍にいると言ってくれたから。私もそれに応えていたい」
「………」
「だから逃げ出さない。私は、ユウの傍にいたい」
逃げ出せないのではなく、逃げ出さないのだと。
しかと主張すれば、アレンの目は微かに見開いた。