My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「普通の人間じゃなくなるけど、普通の人間じゃ持ち合わせられない力を持てる。それでも、怖いですか?」
アレンから向けられたのは思いも掛けない問いだったが、答えを導き出すのは容易だった。
何故なら、昔も同じことを強く望んだ自分がいたから。
「私は特別な力なんて要らないよ」
イノセンスの適性実験の最中。
エクソシストになることを拒み、普通の人でいたいと強く望んだ。
その思いに反応を示したのかわからないが、雪の幼い真っ赤な掌の中で、父親のイノセンスは砕け散った。
父の唯一残したものを、自身で壊してしまった。
それから尚の事、雪の中でエクソシストへの望みは薄れていった。
それはノアに対してだって変わらない。
ただ一つ変わったのは、新たに生まれた感情が在ったからこそ。
「今の私を認めた人がいてくれたから、そのままの自分でいい」
そして、
(そのままでいたい)
儚き願望は、喉の奥で飲み込んだ。
じっと雪の反応を伺うように見つめていた銀灰色の目が、少しだけ細まる。
予想していたのか、予想外だったのか。
どうとも取れない表情を携えたまま、アレンはゆっくりと口を開いた。
「じゃあ、」
やんわりと繋いでいた手を、軽く引かれる。
距離が、近付いた。
「"そのままの自分"を求められない世界は、必要ですか?」
「…え?」
再度反応が遅れてしまった。
今度は言葉の意味がはっきりとは理解できなくて。
「周りが必要としないなら、僕達も必要としなければいい」
「…どういう…」
意味か、と問い掛ける前に。
雪の手を、アレンの手が少しだけ力を込めて握り締めた。
「逃げよう、"ここ"から」