My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「アレン」
「…はい」
「アレンはアレンだよ。不安な時は、沢山名前を呼ぶから」
「っ…はい」
あやすように背を擦りながら、優しい声で彼の名を呼ぶ。
抱きしめていた体が縋るような抱擁に変わるのを感じながら、雪は殊更優しく呼び掛けた。
「ずっと気付けなくてごめん。ずっと独りで抱えてたんだよね。私も私の体のこと、よくはわからないけど…不安はわかるから。怖さも、わかる。だから私の前で無理に笑わなくたっていいよ」
「………」
「偶に笑いたくなくても笑う時、あるでしょ。私も昔、よくしてた。癖になっちゃってたから、簡単には変えられないけど…素の顔の方が笑顔じゃなくてもマシだって、肯定してくれた人がいたから」
「…それは…」
「ん?」
「………いえ」
(神田、なんだろうな)
吐き出せずに呑み込んだ言葉は、胸の内だけで。
アレンは唇を噛み締めた。
神田のものだから、と以前は止められた衝動を、今回は止められなかった。
気付けば堪らず掻き抱いていた。
人狼と化しているからだけではない、肌の温かさ。
触れてしまえば溢れる感情に、堪らず泣きそうになった。
彼女の心はこの体のように柔く温かく、手放したくなくなってしまう。
そして同時に浮かぶは、歯痒い気持ち。
単に似た立場だったからではない。
アレンの心を包んだのは、確かに雪だったからだ。
「…悔しいな」
「? 何が?」
しかしそんな彼女の心に触れることはできても、手中にすることはできない。
既にその心は、別の相手に捕えられているのだから。
自分と同じエクソシストでありながら、自分とは全く型の違う男に。
その事実が歯痒くて仕方なかった。
「こうして雪さんに触れられてるのに、この体も心も、全部神田のものだと思うと。悔しい」
「………私、所有物化された覚えはないよ?」
「それでも現にそうでしょう?雪さんの心を捕えてるのは僕じゃない。神田だ」
そっと身を退いて顔を覗けば、そこには気まずそうに口を結ぶ雪の姿があった。
気まずいというより、照れた様子で視線を逸らす。
その表情を見れば一目瞭然だと、アレンは微かに眉尻を下げた。
「ほら。やっぱり」