My important place【D.Gray-man】
第15章 12/31大晦日
「えーっと…あ。あけまして、おめでとう」
ぎこちなく考えるように視線を一瞬巡らせて、再び俺を見た月城が笑う。
取り繕ったような笑顔じゃない。
それは自然に浮かんだ、こいつの感情だった。
小さな笑みを作った口元から、零れる白い息。
フードが脱げた月城の髪には、さっきから雨みたいに降り注ぐ色付きの紙ふぶきや粉雪があちこち付いている。
そんな状態で笑う姿は、どこかマヌケに見えて。
なのに何故か、その姿が目に焼き付いた。
「…とか、言ってみたり」
返答のない俺に不安を感じたのか、恐る恐る言葉を付け足して反応を伺う。
〝あけましておめでとう〟
年明けに、周りが馬鹿の一つ覚えみたいに唱える言葉だ。
明けて何がめでたいのか、習うように口にするのが馬鹿らしくて誰にも言ったことはない。
『じゃあ、私に言ってくれる?』
誰に言うんだと問えば、そう月城は催促してきた。
今でだって、何もめでたいなんて思わない。
俺には何も変わらない一年だ。
…ただ、こいつのことに関しては変化が起きた。
今まで微塵も気にしていなかったのに、いつの間にかこいつのことを考えている時がある。
「チッ」
新年なんて興味ない。
どうせエクソシストとして過ごす日々は、何も変わらない。
言われた通りに任務をこなして、淡々と過ごす日々。
ただその中でこいつが隣にいることは、俺には少なからず意味があるように思えた。
…だから仕方なくだ。
「…おめでとう」
テメェがその言葉を欲しいっつったから。
言ってやった、ただそれだけだ。