My important place【D.Gray-man】
第15章 12/31大晦日(番外編).
「……」
返ってきたのは沈黙だった。
予想外だったのか、俺を見上げる月城の目が丸くなる。
ぽかんとしたマヌケ面。
んだよ、テメェが欲しがったんだろ。
「ぶふッ」
「…オイ」
途端、そいつは肩を震わせて吹き出した。
テメェ…殴るぞコラ。
「いや、だって…っ舌打ち混じりにおめでとうとか…っなんか神田らしいなって…あははッ」
余程ツボにでも入ったのか。目尻に浮かんだ涙を拭って、楽しそうに月城が笑う。
「…うっせぇよ」
一瞬本気で殴ってやろうかと思った気持ちが、あっという間に削がれていく。
なんだか馬鹿らしくなって、溜息混じりに体の力を抜いた。
"俺らしい"と言うだけ、こいつは俺のことを見ているのか。
なんとなくそんな思いが浮かんだから。
「でも、ありがとう。なんか今年一番の、良い思い出になりそう」
「まだ一日しか経ってねぇぞ」
「…あ。」
嬉しそうな顔で阿呆なことを口にする月城。
いつもなら呆れるそれに、何故か不快感はなかった。
思い出なんて、そんなもん教団で作る気なんてない。
『私の人生は一度だけだから。後悔したくないの』
ただこれが、こいつにとって思い出になるなら。
…このうざい人混みの中にいる意味も、少しはあるような気がした。
「今年もよろしくね」
「精々、任務で足引っ張るなよ」
腕の中で見上げてくる月城の顔を見下ろす。
今年もこいつの顔を見ながら、一年過ごすのかと思えば。
案外、悪くはないかもしれない。