My important place【D.Gray-man】
第15章 12/31大晦日
──にしても。
「うわ…」
軽いハグや頬キスだけならまだしも、恋人であろう男女はあちこちで熱い抱擁や熱烈なキスをしている始末。
目のやり場に大変困る。
流石アメリカ自由の国。
もうキスって握手みたいなもんじゃないのかな。
あれ、言い過ぎですか。
でもこんな光景を見てたらそう錯覚もします。
「チッ。出るぞ此処から」
「でも、そう簡単には…」
何度目かの男性のアプローチを返り討ちにした神田が、うざったそうに吐き出す。
確かに神田程目を惹く美形なら、ハグの嵐がきても仕方なさそうだけど。
この揉まれる程の群衆の中を、簡単に抜け出せるはずもなく。
「お嬢ちゃんも! おめでとう!」
「あ、はいはい」
笑って抱きしめてくる知らない男性に、笑顔を取り繕って返す。
お嬢ちゃんって…そんな年齢に見えるのかな。
一応、お酒を飲める年齢なんだけど私…まぁ、東洋人は幼く見えるらしいけど。
「面倒臭ぇな…」
そんなことを考えながら甘んじて抱擁を受け入れていたら、溜息混じりの声が聞こえた。
かと思うと、強い力でハグしていた体を男性から引き剥がされる。
同時に背中を押されて、頬に当たったのは黒い団服の生地。
「祝いたいなら他所でやれ」
すぐ近くから聞こえる神田の声。
目の前には黒い団服の胸元。
見上げればすぐ傍に神田の顔があった。
というか近っ…!
「おお、綺麗なお姉さんだ! おめで」
「他所でやれつってんだろ」
にこやかに両手を広げる男性に凄みのある顔で威嚇して、神田の片手が私の背中に回された。
「俺の相手はこいつだ、間に合ってる」
…は?
「ちょ、神っ」
「黙って大人しくしてろ」
しっかりと背中に回された腕は、一本でも躊躇なく私の体を胸元に押し付ける。
密着する体に、神田の長い黒髪が私の頬にさらりと触れた。
え、ちょっと。
ちょっと待って。
なんで私は神田にハグされているんでしょう…!?
「な、ん…っ何っ」
「ただの代用だ。じゃねぇとまた余計な奴らが寄ってくんだろ」
「…あ。」
成程。
無駄に周りからのハグキスコールを防ぐために、私をハグ代用に使ったんだ。
…私は便利な代用人形ですか。