My important place【D.Gray-man】
第15章 12/31大晦日
思い返せば不服ばかりのコムイ室長の任命もあるけど、何より私を凹ませたのはこの一年の最終日にこんな所にファインダーのマントを着て立っていることだ。
「なんでこんな日まで任務尽くし…それもAKUMA退治…コタツでみかん食べながらカウントダウンしたい…」
がっくりと肩を落として項垂れる。
そう、只今神田と絶賛AKUMA退治の任務中。
ちらほらと降る粉雪は綺麗だけど、任務遂行中の身としては視界を悪くする邪魔なものでしかない。
私達には風景を愛でる暇もないんですか…。
「んなもん帰ってからやりゃいいだろ」
「今からじゃ多分カウントダウンには間に合わないよ」
「別に日付が変わるだけだろうが。なんでそんなことにいちいち拘(こだわ)る」
「拘るというか…記念すべき日じゃない? やっぱり年が変わるっていうのは」
相変わらず色んなことに興味のない神田だけど、それは年越しにまで及んでいるらしい。
神田らしいと言えば、そうだけど。
「それにほら、神田ってお蕎麦が好きでしょ? 日本の年越しは"年越し蕎麦"っていうのを食べる風習があるんだよ」
「……」
あ、興味持ったみたい。
黙ってるけど、否定しないのはそういう意味だ。
何度も任務に組まされる中で、なんとなく神田の沈黙の意味はわかるようになってきた。
…そういえば神田の出身地って何処だっけ。
今までそんなことに興味持ってなかったけど、見た目からしてアジア人だし、名前からしても…私と同じ日本人かな。
そしたら年越し蕎麦のこと知っていても可笑しくは──
「伏せろ!」
ないよね。と考えていた思考は、神田によって遮られた。
正しくは神田の六幻によって。
「うわッ!?」
瞬時に鞘から抜いた六幻を、神田が横一直線に振るう。
反射的に仰け反った私の髪に切っ先が微かに当たって、はらりと数本の髪が暗い空に舞った。
あ、危ない…!
「チッ外した」
「当たってたら私死んでます…!」
「違ぇよ阿呆。あれだ」
苦々しく吐き捨てる神田の視線の先。
どうやら振るった時に放たれらしい、粉雪舞う空を飛行する六幻の技の一つ──"界蟲(かいちゅう)"が狙ったのはそれ。
追っていた例のAKUMAの姿があった。