My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「じゃあ私にもする?」
「え?」
「悪戯」
ベンチの上に立つティモシーに目線を合わせるように、前に立ったエミリアが少しだけ屈む。
いつもは上にある視線がぐっと近付いて、ティモシーの顔に朱色が差した。
「さっき言ってたじゃない。トリック オア トリートって」
「そ…それは…言った、けど…」
にっこり笑って問いかけるエミリアに、ぎこちなく俯くティモシーに先程の勢いはどこにも見当たらない。
彼女に対して仕事を邪魔する悪戯を仕掛ける気は、ティモシーには一切なかった。
怪我を完治させてすぐに働き出したエミリアが、一人前になろうと頑張っていることは知っている。
だからこそ応援したい。
『マスター、顔赤いでぇ♪』
(ツキカミうっさい!)
ふわふわと背後で浮かぶ憑神が、いやったらしくからかってくる。
そこに反応することなく、ティモシーは心の内で彼を怒鳴りつけた。
憑神が見えるのは適合者であるティモシーだけ。
ここで声を出して憑神を怒っても、エミリアにはなんのことだかわからず困惑させるだけだろう。
「なーんてね♪はい、どうぞ」
「へっ?」
ドキドキと高鳴る鼓動。
好意を寄せる女性への悪戯など、何が許されるのか。
ついピンクな思考へと移りそうになったティモシーを止めたのは、明るく笑うエミリアの声。
それから、ぽんと掌に押し付けられる固い何か。
「こんなものしかないけど、後でちゃんとしたお菓子あげるから。今は我慢してくれる?」
見れば、カラフルな包み紙の大きな飴玉がころりと一つ。
ね?と首を傾げて笑うエミリアに、堪らず一歩後退る。
俯いて熱を持った顔を隠すと、おずおずとティモシーは頷いた。
「し…仕方ねーな。エミリアには悪戯しないでやるよっ」
『くっくく♪残念やったなぁマスター。折角悪戯であーんなことやこーんなこ』
(だから黙れってツキカミは!)
変に煩い鼓動を止められないのは、この横入りしてくるイノセンスの所為だと言い聞かせた。