My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
「───成程ねぇ。だからそんなに落ち込んでんの」
「…落ち込んでねー」
(落ち込んでるじゃない。思いっきり)
ゴウンゴウンと音を立てて回る洗濯機を前に、振り返ったエミリアはふぅと溜息をついた。
目に映るは、ランドリールームのベンチに腰掛けて、しゅんと項垂れているティモシー。
その姿はどう見たって落ち込んでいる子供そのもの。
「折角気合い入れたってのに…此処の大人は行事に疎過ぎんだよ」
そうぼやくティモシーの姿は、真新しい団服姿でも見慣れた子供服でもなかった。
裏地が真っ赤な黒いマントに、白い布手袋。
特徴的な八重歯が重なって、なんのコスプレをしているのかは安易に想像できた。
ドラキュラ伯爵といった辺りか。
「仕方ないじゃない。此処は住み込みの職場なんだから、皆忙しいのよ」
「だからってさ…誰もハロウィンに気付かないなんてよっぽどじゃねー?ガルマーじゃねーんだし。仕事し過ぎだろ」
「…パパと似たようなものかもね」
落ち込んでいるティモシーの理由はただ一つ。
ハロウィンという行事を、教団の人間が誰一人意識していなかったことだ。
張り切ってドラキュラに扮し周りにお菓子を強請りに行けば、誰もハロウィン用のお菓子など用意していなかった。
仕事に没頭して行事を毎度忘れていた父であるガルマーを思い出しながら、同じようなものだとエミリアはつい苦笑した。
どうせ今もハロウィンなど気に掛けず、犯罪者を追って仕事に没頭しているのだろう。
「でもそれくらいで落ち込むなんて、ティモシーらしくないわね」
「へんっだから落ち込んでなんかねーって!ちゃんと悪戯してきてやったぜ、お菓子貰えなかった分!」
「そうなの?」
「当たり前だろ!トリック オア トリート!有言実行だ!」
〝お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ〟
今日はハロウィン。
その言葉を実行して許される日だ。
胸を張って声を上げるティモシーは言葉通り、お菓子を用意できていなかった教団の大人達に片っ端から悪戯をして回っていた。
仕事の書類を撒き散らし、壁に盛大な落書きをして、科学班や警護班や管理班の職場をあちこち駆け回った。
結果、散々怒られたのだが。
それでも今日はハロウィン。
お菓子も渡さず悪戯で文句を言われるのは、ティモシーにとって理不尽な話である。
