My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「───さぁ、どうぞ貴女も座ってお茶に…おや。椅子は一つしかありませんでしたね」
フェイさんが出ていった後。
白々しく、さも今気付いたかのような様子でルベリエ長官がブレイクタイム参加を促してくる。
「大丈夫です」
確かにケーキは美味しそうでそそられるけど…今はそれより優先させなきゃいけないことがある。
長官と優雅なブレイクタイムに浸る余裕はなかったから、机越しに向かいに立ったまま首を横に振った。
「要りませんか?ケーキ。貴女の為に焼いたのですが」
「じゃあテイクアウトで…って違う。ありがとうございます、今度頂きますっ」
ケーキに罪はない。
勿体無い精神でつい阿呆なことを口走って後悔。
落ち着け自分。
糖分足りてないのかな。
「おやおや。なんだか元気になられたようですね。何か良いことでもあったのですか?」
「…私を釣るならケーキよりもっと有効的な餌があることを、長官はご存知でしょう」
問いには答えを返さなかった。
長官のペースに呑まれちゃ駄目だ。
ボロを出して、ユウとのことに気付かれてしまうかもしれない。
はっきりと伝えずとも、その言葉だけで意図は理解したらしい。
持っていたケーキ用のナイフをお盆の上に置くと、長官は顎の下で両手を組んだ。
「ほう。ではあの要件を呑むと?でしたら話は早い」
幾分低くなる、ルベリエ長官の声。
細まる蛇のような、温度を感じさせない瞳。
先程の穏やかさが嘘みたいに、昨日の冷徹な姿を思い起こさせる。
やっぱりこの人は、昨夜の人と同一人物だ。
目的の為なら手段を選ばない、聖戦の鬼。