My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
昨夜の長官の姿を思い出せば、必然と蘇るイノセンスに焼かれる痛み。
「っ…その代わり、私と約束して下さい」
震えそうになる体を、気迫で押しとどめる。
これは私にしかできないこと。
だからここで、退いちゃ駄目だ。
「神田ユウに余計な手を出さないこと。…彼だけじゃない。エクソシストを、道具として無闇に切り捨てないで頂きたい」
「おや…くくく、」
「何が可笑しいんですか」
「いえ。ノアである貴女が、エクソシストの為になどと。面白い要求だと思いまして」
「それは貴方も同じでしょう、長官。私に取引なんて持ち掛けてるんですから」
ノアは敵であるはずなのに。
そんな私さえも利用しようとする。
やっぱり常人とは異なる考えを持つ人だ。
「いいでしょう。ただお茶の誘いに来ただけですが、よもやここで望んだ答えを聞けるとは」
組んだ手に顎を乗せて、にこりと笑う。
だけど蛇のような鋭い目は、一切笑っていなかった。
「貴女の望み、聞き入れてもいいですよ。私の狗(いぬ)になるならば」
「………」
狗、か…。
いざルベリエ長官の口から直に駒となる言葉を聞いても、衝撃はそうなかった。
簡単なことだ。
ファインダーとして働いていた頃は、私は教団の歯車の一つに過ぎなかった。
それがノアなんて特質なものに変わって、多少は使える狗に変わっただけ。
教団での私の立場は、大して何も変わっちゃいない。
「…わかりました」
此処で生きていくと決めたんだ。
私が守りたいものの為に。
その為には、ただ嘆いてなんていられない。
私ができることをしないと。
私にしかできないことがあるなら。
なんてことはない。
昔だって似たようなことをして生きてきた。
そんな私に誇りのような心気なんてないし、譲れないものは別にある。
「貴方の狗になります」
その為なら、媚び諂うくらい。
いくらだってやってやる。