My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「あの…ルベリエ長官。どこまで聞いていたかわかりませんが、貴方にお話が…」
「ええ、ノアのことでしょう?先程来たばかりですが、フェイ補佐官に訴える貴女の声は聞こえました」
コツコツと高級感ある革靴を鳴らして、ルベリエ長官が向かったのは檻の中の小さな机。
ドーム状の蓋付きお盆をそこに丁寧に置く姿に、改めて目を止めた。
なんだろう、あの銀のお盆。
「ですがその件については、コムイ室長同伴の下で、と昨日室長本人と取り決めましたからねぇ。彼抜きで事を進めれば私が叱られる。なのでその件は彼を呼んでからお話しましょう」
…あれ?
割と話通じる…っていうか、ちゃんと約束守るんだ。
昨日の強引なまでの長官とは違う姿に、なんだか拍子抜けした。
「私は貴女の見舞いに来ただけですよ。ですが余計な心配でしたね」
お見舞い?
なんだか長官らしくないけど…だからもしかして、鴉を同行させてないのかな…。
長官の意図が掴めず、困惑気味に見る。
そんな私ににっこり笑顔を返すと、長官は銀の蓋をぱかりと開いた。
中から姿を見せたのは、綺麗にデコレーションされたマカロンチョコケーキ。
なんだか見覚えがある。
「以前お茶をした時に、私のケーキを美味しいと言ってくれたでしょう?貴女の為に作ってきました。どうぞ召し上がって下さい」
「………」
え、これ長官が作ったの?
昨日の今日で?
…いつの間に?
そして相変わらず、お店のケーキ並みに上手い…。
タワーのように器用に積み重なったマカロンに、光沢ある艶やかな深いブラウンのチョココーティング。
なんだかそこだけ場違いに、キラキラ輝いているようにさえ見える。
冷たい石造りの独房の中で、キラキラ輝く鮮やかなマカロンケーキ。
……アンバランス感が半端ない。