My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「嬉しいですねぇ、直々に名前を挙げて貰えるとは。ああ、二人共楽にしておいて下さい。おはようございます」
「何故…長官が此処に?」
「何を仰います、フェイ補佐官。理由なんて一つでしょう?月城雪に会いに来たのですよ」
開いた扉の向こうに立っていたのは、やはりルベリエ長官だった。
ピシリとまるで軍人のような隙のない立ち姿で、細く鋭い蛇のような目で笑いかけてくる。
昨日の見慣れた緋装束の鴉の姿は、その周りには見当たらなかった。
ってことは…一人で来たの?
「ち…長官、いつの間に…っ」
「び、吃驚、した」
「あの、今はフェイ補佐官が…」
「わかっていますよ。なに、少々女性の話に混じらせて頂くだけです」
戸惑いを隠せない様子で各々口を挟んでくる警護班を軽くあしらって、銀のお盆を手にしたルベリエ長官が檻の中へと踏み入れる。
って、警護班も気付かないうちに扉に張り付いてたの?
………この人、絶対常人じゃない気がする。
「おはようございます、月城雪。具合はどうです…おや。怪我はもう治ったので?」
「!」
唖然と突っ立ったままでいれば、ルベリエ長官の蛇のような目が、興味深そうに私の体を這ってゆく。
舐めるような視線に悪寒がしたけど、それ以上に勘繰るような声にはっとした。
包帯は全部取っちゃったから、体の火傷が消えていることは一目瞭然。
まずい。
長官にユウの血で火傷を治したことは、悟られないようにしないと。
「一晩寝たら、治ってました」
「それもノアの能力ですか?」
「…わかりません」
「然様ですか…いや実に素晴らしい。良い体をお持ちだ」
「………」
良い体だなんて。
嫌味にしか聞こえない長官の褒め言葉に、むっとしたけどそこは我慢。
此処で噛み付いてもどうにもならないし、下手に騒いでユウとのことがバレたら元も子もない。
それに急な登場には驚いたけど、長官に会えたんだ。
これは願ったり叶ったり。
長官には、絶対に話し交えなきゃいけないことがあったから。