My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
✣
「お前、体大丈夫か?」
「ああ。割と目覚めはスッキリでさー。どうして気絶なんかしてたんだろ…」
「それオレもなんだよな。痛い所なんてどこもねぇし」
「何はともあれ、神田さんがいてくれて助かったよなー」
「ほんとほんと!」
「………」
いや、それ、ユウの所為ですから。
和やかに笑ってる所悪いですけど、諸悪の根源はあの暴君ですから。
齧り付いた扉の小さな開閉口から、こっそり通路の警護班を伺う。
ユウの言う通り一晩起きなかった警護班の人達は、今ではすっきりお目覚め状態。
それも起き抜けにユウが吹き込んだデタラメな説明まで信じちゃってる始末。
偶々偶然居合わせて、気絶しちゃってる警護班の代わりに私の世話をしたっていう。
…穴だらけの説明だよね。
なんで信じてもらえたんだろう。
起き抜けの回らない頭に吹き込んだから?
刷り込みって恐ろしい。
人としてはどうかと思うけど、エクソシストとしては歴も長いし腕もあるから、信用されてるんだよね…ユウって。
ゴズやチャオジーみたいに純粋に慕ってる人もいるし。
人は見かけによらな…違う、中身によらないとは正にこのことだ。
でも警護班の皆は騙せても、あのコムイ室長まで説き伏せられるのかどうか。
待ってろって言われたけど…実際不安で堪らない。
ユウは別に口達者な訳じゃないし。
相手を説得させるなら、まだ同年代のアレンやラビの方が上手そうな気がする。
…まさかコムイ室長を脅したりしてないよね…。
「………」
…ユウならやり兼ねない。
恐ろしい。
───コツコツ、
ユウが此処から出て、どれくらい経ったか。
時間間隔なんてわからないから、果てしなく長いようなはたまた短いような気がする。
ついあれこれ考えてしまい、最悪の事態を想像してしまって後悔した時。
「! 誰だっ?」
「こんな早朝から面会なんてあったか…っ?」
暗い通路の奥から、甲高い足音が響いてきた。
一斉に警戒態勢を取る警護班の皆の目の前に現れたのは、すらりと細い黒タイツのおみ足を晒した女性。
「フ…フェイ補佐官…!?」
「何故貴女が此処に…っ」
「室長の指示で来たのよ」
コムイ室長の補佐役、ブリジット・フェイさんだった。