My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「んく…っ」
やがて送り込んだ俺の体液をほとんど飲み切ると、苦しそうにくぐもった声で雪が掴んだ服を強く引っ張ってくる。
切なる主張に、仕方なく深く塞いでいた唇を解放してやった。
「っは…!」
大きく息を吸い込み、酸素を取り込む。
雪が必死に気道を確保している間に、細い体の様子を伺った。
…包帯の上からじゃわからねぇな。
「けほっ…ユ…何、血…っ」
「……」
「ユ…? ちょ、何っ」
慌てて深呼吸した所為か、咳き込む雪の頬に目立つ大きなガーゼに、手を伸ばす。
医療用テープで貼り付けられたそれを引き剥がそうとすれば、戸惑いながら雪が体を後方に退けた。
だがその体は俺の腕の中。
逃げ切る前に、易々とガーゼを引き剥がす。
見えたのは、肌に塗られた軟膏らしき微かな跡。
それから──
「何して…!」
「よし」
その微かな軟膏の下に、怪我らしき跡は見当たらない。
どうやら俺の血は確かに雪の体に効いたらしい。
望んだ結果に頷く。
ノアの体に俺の血が効くのか、少し不安はあったが…そもそも俺の器はイノセンスなんかじゃない。
なら俺の体液が、雪の体に宿るノアの力と反発することもないか。
「? よしって…」
「包帯の下も見せろ」
「え?」
状況が理解できていない雪を置き去りにしたまま、次は体中を覆っていた包帯に手を伸ばす。
「待っ…何っ? ユウ!?」
慌てる雪はガン無視したまま、するすると包帯を解けば痩せた体が露わになる。
少し不健康な肌だが、包帯を巻くような怪我なんてどこにも見当たらない。
腕も足も腿も手も。極々普通の人の肌だ。
「…消えてる」
そこでやっと雪も俺の行為の意味に気付いたらしい。
傷跡が消えていることに驚いている様子で、自分の体を凝視していた。