My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「あのね…ずっと伝えたかったことが、あるの」
考え込んでいた俺に気付いた様子はなく、恐る恐る切り出してくる。
噛み締めるように伝えてくる雪の言葉に、深く聞かなくても理解できた。
ずっと溜め込んできたこと。
俺に真っ先に言いたかったこと。
パリでの任務が終わったら伝えると約束したこと。
それを話そうとしてる。
「………」
一歩体を離して、顔を退いて独房の隅にあるベッドを指した。
今にも倒れそうな幽霊みたいな顔は変わらない。
雪にはしっかり最後まで話してもらわないといけない。
腰を落ち着けさせた方がよさそうだ。
───ギ…
無言の催促は伝わったらしく、ベッドに座る雪の前に木製の小さな椅子を引いて置く。
一人分距離を置いて向き合う形で、其処に俺も腰を落ち着けた。
「話せよ、最初から」
「…うん」
背凭れに身を預けて腕と足を組む。
畏まった方が雪も緊張するだろうと、普段通りの態度で促した。
「私もはっきりとは断言できないけど……多分、最初はあれだった」
深く頷いた後、思い出すように探り探り雪が話し出す。
「ユウとAKUMA討伐の任で、ミュンヘンの墓地に行った時」
その言葉を、単語を、声を、一つとして聞き逃すまいと耳を澄ませた。