My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「この錠だけでも気に入らねぇってのに、体中焼かれた状態で放っておけるか」
「っ…でも…ッ」
錠を掛けられている手首の鎖を掴んで引っ張る。
怪我は治ってもそこに痛みを感じたのか、尚も反論しようとしていた雪の声が勢いを削がれた。
「大体お前はそうやって他を気にし過ぎなんだよ。まず自分の立場を心配しろって、パリの独房でもそう言っただろうが。ァあ?」
「ぃ…っいひゃいっ」
「此処は教団なんだぞ。そしてお前は被疑者側。どうしたら此処で命を繋げられるか、それだけ考えてろ」
「れ、れも…」
「でももクソもねぇ!次イノセンスに全身焼かれなんてしてみろ。消毒液溜め込んだ風呂にぶち込むからな」
「っ!?」
言ってもわかんねぇなら実力行使だ。
柔い頬を引っ張って脅してやれば、忽ち雪の顔が真っ青に塗り換わった。
我慢し慣れてるからって平気な訳じゃねぇだろ。
痛いもんは痛いって言え。
もっと自分の体の悲鳴を聞けってんだ、こいつは。
「俺にはもっと体を大事にしろって言ってくる癖に、肝心の自分が粗末にしてりゃ世話ねぇよ。ならお前も自衛しろ。俺の為に」
「ユ…ユウの為?」
「ああ」
それでもこいつが別のもんを優先するのは、自分の体を粗末に見てるわけじゃない。
ただ、守りたいもんがあるからだ。
その気持ちはわからなくもない。
なら俺にも守らせろ。
「ノアは不死だなんて言われてるが、んなもんデマだ。それだって"人"だろ」
"言っただろ…ノアは不死…だ"
俺の手で絶命させたノア、スキン・ボリック。
そいつが頑なに最期まで口にしていたのが"ノアは不死"という言葉だった。
だがそいつは俺の目の前で絶命した。
六幻に斬り裂かれ、体の細胞を一つ残らず塵に変えて消え去った。
"ノアは不死か…そんなデマ…誰が言ったんだかな"
あの時悟ったんだ。
俺もノアも同じ。
何度命を再生させようとも、いずれその"終わり"はくる。
永遠の命なんて存在しない。