My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「体の痛みはまだあるか」
「……ないです」
「ならいい」
雪の体から剥いだ包帯を捨てて、一歩距離を取って下がる。
唖然と首を横に振る雪の体を頭から足先まで見渡して、やっと満足のいく結果に頷いた。
前もAKUMAのウイルスを取り込んだ雪の体を、俺の血で治したんだ。
瀕死でもない傷なら、綺麗に治せて当たり前だったか。
「…すご……って違う!」
「あ?」
なのに雪は喜ぶどころか、顔を青くして強く首を横に振ってきた。
なんだ急に。
「だ、駄目だよこんなことしたら…ッ」
「は?なんでだよ」
「今の私は前の私と立場が違うんだから!」
んなもん知ってる。
だからなんなんだよ。
「"ノア"って括りにされてるのに…っそんな私をユウが第二使徒の力で治癒したなんて知られたら、色々問題が…っ」
「んなもん黙ってりゃバレないだろ」
「バレるから!こんな短時間で完治なんてしたら絶対バレる!」
「治るかもしんねぇだろ。お前ノアなんだし」
「え、何その適当さ。私にそんな能力ないからねっ?」
「あるかもしんねぇだろ。お前が知らないだけで。すげぇな、流石ノアは超人だって言われてるだけある」
「適当!なんかすっごく適当!そしてすっごく棒読み!」
一人慌てて騒ぎ立てる雪に、そんなことかと溜息をつく。
「ユウはもっと事の重大さを自覚するべきだと思う…ッそんな軽いことじゃ───」
「ったく、うだこだうっせぇな」
事の重大さをわかってねぇのは自分だろ。
今回は命に別状なかっただけで、またイノセンスに襲われた時に同じ結果に至る確証なんてない。
人間にとってAKUMAウイルスが死の毒みたいに、ノアにとってイノセンスも毒物みたいなもんだ。
溶けた六幻の刃を体内に取り込んだスキン・ボリックは、それで命を削られ最後には死に至った。
同じことが雪に起きない確証なんてない。
そうなったら俺の血だって効かない。
…そうなってからじゃ全部遅いんだよ、阿呆。