My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
浮かんだ名前もわからない感情に、確かに戸惑った。
なのにすんなりと受け入れられている自分もいて、不思議とすぐに落ち着いた。
心は熱い。
でもそれが心地良かったから。
「頼りねぇ守り目だな」
「…自覚はあるから言わないで」
笑って言えば、間近にある顔が少しだけ気恥ずかしそうなものに変わる。
本人も似合わない言葉だってのは自覚してるんだろう。それでも俺に向けてくれたのは、それだけの思いがあったからだ。
そう思えば、この緩んだ口元は引き締まりそうもない。
「でも、そうだな」
雪の後頭部の、少し下。細い首に触れながら髪の中へと指を差し込む。
そのまま覆うようにして片手で、小さな顔を引き寄せた。
「なら尚の事、傍にいてもらわないと困る」
僅かな距離を引き寄せれば、すぐに重なり合うお互いの肌。
俺の行為が読めていたようで、すんなりと目を閉じる雪の唇を優しく塞いだ。
「…ん」
雪の声を吸い込むように、唇で覆う。
男が女に、それも守りたいと思っている相手に逆に守られるなんざ、みっともないもんだと思う。
…そう、思っていた。
でも実際に雪の思いは俺の心に簡単に舞い込んで、言いようのない感情で覆ってくれた。
よくはわからないが、満たされる思いだ。
「ふ…っ、んん…」
心は満たされた。
その思いを体にも求めるように、口付けを深く変える。
薄く開いた雪の唇を割って舌を滑り込ませれば、すぐに反応が返ってきた。
耳を掠める、甘い雪の吐息。
求めるものに応えてくれる行為に、心がまた熱くなる。
自然と雪を抱く腕にも力が入った。