My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「大好きだよ、ユウ。真っ直ぐ向き合ってくれる強いところも、迷った時に引っ張ってくれる優しいところも。…お酒に逃げる弱いところも」
「……………弱いって言うな」
…弱さなんて嫌いだ。
そんなもの持っていても、都合よく他人につけ込まれて利用される材料にしかならない。
そう思うのに。
「ぜんぶ、愛おしいなぁって思う」
俺を見つめて、そう微笑む雪の瞳に吸い込まれた。
弱さを指摘されてるはずなのに、嫌な気はひとつもしなかった。
「変だよね。檻に入れられてるのは私で、人並みな強さだってユウには到底及ばないのに…そんなユウを守りたいって思うの」
"守りたい"
全身包帯だらけの鎖に繋がれた人間が、言うべき言葉なんかじゃない。
なのに迷いなく告げる雪の柔らかな微笑みに、嘘なんてひとつも見当たらなくて。
何故かその言葉はすんなりと、俺の中に落ちてきた。
固く締めきっていたはずなのに。
弱さなんて誰に見せても得するもんじゃないと思っていたのに。
雪の声が、するりと俺の中に舞い込む。
真っ暗な泥水の中に、そっと両手を差し込むように。
それは音もなく静かに落ちてきた。
形のない温もり。
「……」
よく、わからない。
ただ漠然と何かに包まれるような、そんな感覚がした。
形はない。色もない。
匂いも音も何もない。
なのに何故か心が熱くなる。
アルマに笑顔で手を引かれて感じた、嬉しさじゃない。
あの人の儚い笑みの記憶を見て感じた、切なさじゃない。
心が熱くなる。
その熱さに触れられて、撫でられて。
それから、抱きしめられたような感覚がした。
丸裸の俺の存在を、無償で包み込んでくるような感覚。
「……なんだそれ」
結んだ唇の端が緩む。
嬉しい。
その感情はわかった。
なのにそれとは真逆の思いも混ざり合って、自分の思いがよくわからなかった。
嬉しいのに、泣きたくなる。
そんなちぐはぐな感情。
……なんだ、これ。