My important place【D.Gray-man】
第2章 空白の居場所
「時々あいつがするのと同じ、笑いたくもねぇのに笑ってる顔だ。見ててむしゃくしゃする」
吐き捨てるような神田の言葉に、咄嗟に何も返せなかった。
笑いたくもないのに笑ってる顔。
そんな意識はなかったけど、取り繕う自分の心を見透かされた気がして。
今まで何度も神田と任務を同行してきたけど、そんなことを言われたのは初めてだった。
多分馬車の中やこの待機時間が、無駄に一緒に過ごす時間を作ってしまった所為かもしれない。
…駄目だ。
「…そうかもね」
視線はわんこに戻して、よしよしとその頭を撫でる。
「でも、そういう時…アレンは多分、誰かの為に笑ってるんだと思う」
あの子は優しいから。
誰かの為に、なんて戦う理由も口にできない私と違って。目の前に助けられる命があるなら、迷わず手を差し伸べられる子。
「神田は気に入らないかもしれないけど、アレンの笑顔に救われてる人もいるから。あんまり言わないであげて」
自分の笑顔で誰かが安心できるなら、あの子はきっと心を殺して笑える子。
任務の移動用に使用してるノアの方舟は、元々は千年伯爵のもの。
敵の所有物を操れたことに対して、教団の皆が不信感を抱かないはずがなかった。
それでも操れた本人であるアレンが、きっと一番不安だろうに。
『いつまでも凹んでたって、仕方ないですし』
そう眉を下げてアレンは笑っていた。
…強い子だと思う。
多分あの子の周りの環境が、きっとそうさせたんだろうけど。
「ならお前はどうなんだよ」
ぽつり。
と静かに問われた言葉は予想外なもので、思わず顔を上げれば黒い眼と目が合った。
「お前はなんで笑う」
なんで?
考える必要もない。
答えなんて決まってる。
「そんなの、自分の為でしょ」
取り繕うのは、無駄に争いたくないから。
人に優しくするのも、衝突なんてしたくないから。
社交辞令も建前も、全ては自分が円滑に生きていく為に。