My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「だから酒に逃げた。思考から追い出そうとしたんだよ」
…初めて酒を求めたのは、アルマのことを忘れたいが為だった。
完全に忘れ去ることなんてできない。それはわかっていた。
この記憶からアルマのことを消し去りたいと、思ったこともない。
ただ教団に入団したばかりの頃は、毎日アルマの死に顔が脳裏にちらついて。
アルマよりあの人を選んだ俺の顔を見て、絶望して咆哮を上げるあの血と涙の顔がこびり付いて。
…毎日、生きることがしんどかった。
生きてなきゃいけない。
俺はあの人に会うまでは死ねない。
そう毎日言い聞かせては、ベッドに横になるとアルマの死に際の顔に毎日責め立てられた。
一時でもいい、何も考えずに眠りにつきたかった。
深い眠りの中に、少しでもいいから安息を求めた。
そして辿り着いたのが暴飲の道。
頭がグラついて思考が回らなくなるくらいアルコールに浸れば、何も考えずに意識を飛ばせた。
それがいいことだなんて思っちゃいない。
ただ…少しだけ。少しだけで、いいから。
過去も未来も焦がれずに、ただただ無の闇に身を沈めたかったんだ。
「んなことじゃ何も解決しないことくらい、わかってたのに」
それが救いだなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇけど。
「……馬鹿兎の言う通りだな」
暴飲はただの逃避だ。
後ろに下がるばかりで、前には一歩も進めない。
逃避は弱い奴がすることだ。
弱い人間なんて嫌いだ。
そんな俺自身が、忌み嫌う弱い奴に成り下がっていた。
だからそんな自分は、誰にも見せてこなかった。
俺自身が嫌ってるもんを、誰かに見せる必要もない。
今まで当たり前に俺の内側に残してきたものだったが…
『君、いつも閉ざすだろう? 踏み込んでくるなって、刺々しい程に心から針を剥き出しにして。でも、これでも私は君の親代わりをしてきたからね。理解できていることもあると思ってるよ』
あの人は、そんな俺に気付いていたらしい。