My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
あんなに言葉にするのが下手な雪にも、本音を吐き出させたんだ。
…これじゃフェアじゃねぇよな。
仕方ないと溜息を零す。
俺がここに来たのは、雪の話を聞く為だけじゃない。雪と、向き合う為だ。
「……忘れたいことがある時に、よく飲む。考え事をしたくない時。見たくないもんがある時」
全部吐き出せって俺は言ったんだ。
俺も出すもん出さないと、こいつに全ては伝わらない。
だけど雪は鈍い奴じゃない。
それは前々からわかってた。
少ない言葉でも伝えたいことを形にすれば、じっと見上げてきていた目が驚きを示す。
「……私…?」
…ほらな。
皆まで言わなくても、俺の言いたいことは伝わったらしい。
「…どうしていいか、わかんなくなったんだよ。お前の……あのノアの姿を見てから」
雪には吐き出せなんて軽々しく言った癖に、いざ自分のこととなると構えてしまう。
真っ直ぐ雪を見ることが、難しい。
…俺もなんだかんだ、肝心な時に他人に自分を晒すなんてしてこなかったからな……アルマ以外には。
「お前の気持ちが見えなくて…雪のことが、わからなくなった。そういう奴じゃないって主張する心があるのに、ずっと俺を欺いていたんじゃないかって疑う心もあって。…何も考えたくなくなった」
今はもう見えている。
雪の想いを形として知って、そこに不安はない。
それでも声は自然と小さく、トーンも下がってしまった。